第57話
〜・〜
「あれだね」
1件目。
そう言いながら車を近くまで寄せた。
何せ2人しかいないので。
保護対象を連れてきても全員で3〜4人程度だ。
車一つで足りる。
目前に迫る廃ビル。
周囲に建物はなく、ぽつりと存在していた。
これなら騒音で騒ぎになることはないだろう。
自由に動ける。
僕はかってに、自分に枷をつけることにした。
今日は木製ナイフしか使わない、と。
本物のナイフでうっかり殺しちゃいました、テヘペロ!…なんてなったら大変だ。
今日中に力加減の調整をしたい。
まぁ万が一の時のためにちゃんと普通のナイフは用意しているが。
銃もあるし、木製のナイフだけでなんとかなるような気はする。
蜘蛛はルナと違って、主に相対する標的は片足を裏社会に突っ込んだような半端な連中がほとんどだ。
つまり半グレ。
完全な裏社会に足を浸かっている者の相手はルナがしている。
役割分担だ。
今回の件、蜘蛛の保護対象は表社会の重役。
と言っても表社会で誰もが知っている、とかではない。
例えば公安部の人とか、情報の管理者とか。
テレビに名前は出ないけど、重要なポジションにいる人。
僕はリストを見て間違いがないかを確認し、通信機に連絡を入れる。
「こちら
『了解』
他の先行隊たちも動き出したようだ。
紅に視線を合わせると、僕は頷く。
「さて。行こうか」
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