第54話



「お前、そんな簡単に自分を肉壁なんて言っちゃダメだよ。それにガード硬すぎ」


「そうですか」


「さっきから"そうですか"しか言わないじゃん!」


「そうですね」


「…一文字変わっただけじゃん」



むむむ、と如月はうなる。

そうして困ったような顔で笑った。



「本心だよ。

今回の協力関係で、木田から君のことについてはすでに聞いてる。

ルナの今の状況についても。

君、何なら答えてくれる?」



その質問に僕は内心舌打ちをした。


くそっ。

どこまで言っていいのかが僕には判断できない。


僕は頭が良くない。

こういうの──腹の探り合いは専門じゃない。


いつだって戦場を駆け抜けられればそれで良かったはずなのに。

なんでこんな目に。



如月の短文質問で、僕は今いくつ情報を取られただろうか。

何も出していないと願いたい。


僕は内心の舌打ちを出さないように気をつけつつ、質問に答えた。



「…僕があなたにこたえられるのは、武力だけです」


「へぇ。武力ねぇ。

ま、見た感じ"こっちの意向"に従って武器も木製にしてくれてるみたいだしね。

それは確かだ」


「………」


「まぁいい。

今回の騒動で今ルナは蜘蛛と手を組んで対応に追われている。

裏も大変だが、まぁ表社会も警戒心マックスなんだよね。

飛び火して重役何人も死んだら困るし」


「……」


「蜘蛛の全体数はルナより少ないのは知ってるね?だから、戦力を貸してほしいと要請した。

特に先行が得意なやつ。

こっちは先行隊が激減しててね。希望するやつもほぼいない」


「………」


「まぁ、まさか木田がよこしたのがお前1人だとは思わなかったけど」



ははは…と如月は参ったなという感じで空笑からわらいした。



報連相しろ。

帰ったら何発か殴ってやる。


木田に対してそう思った。

お前がそんなだから入り口であんな不審者見る目で見られたんだろうが。



でもまぁつまり。

先行して道を切り開くのはお前1人で足りるだろ、表社会の護衛だし。


ということであろう。




1人で先行。

それはつまり。



暴れ放題。



それに気づいた瞬間僕のやる気は180度変わった。



「本当ですか!?」



僕は身を乗り出して如月に詰め寄った。

うおっと言って如月がのけぞる。


僕は目を爛々とさせたまま言う。



「それはつまり1人で先行しろって命令ですよね!」


「あ、…ああ。本当はお前の部隊まるまる借りる予定だったから、お前につける隊員は用意できていない。

となると1人で行ってもらうことになるが、それはさすがに、」


「よっしゃー!!!!」


『………は?』



僕の突然の変化に、如月と隊員たちの声が重なった。

動揺しているらしく辺りの空気が揺れる。



そんなこと構わず僕はガッツポーズを取った。



最っ高だ!



道を切り開いて行くことだけを優先して先行。

他のことは気にしなくていい。


しかも1人で。

戦場を独占できる。



今からワクワクが止まらない。

殺せないのは正直残念だが戦えるのならそんなことは些事さじだ。



「それで?

僕はいつから動かしてもらえるんです?」


「いや、だから1人では行かせられな、」


「いえ。先行だけなら1人で十分です。

その方が効率もいいでしょう。

人員も、保護対象の安全確保に向かう時間もさける。

僕は1人で大丈夫です」



僕ははぁ、はぁと息荒く興奮をあらわにした。


それはそうと如月は僕の発言に頭を抱える。

そういえば木田も僕のこういうところに、よく頭を抱えていたなと思い出す。


けれど僕の興奮は止まらないし収まらない。



「……はぁ…。

完全な裏社会とは毛色は確かに違うが、舐めてると死ぬぞ」



その如月の言葉対して、僕はピクリと肩を動かした。

ちょっとした変化だが、きっと如月は気づいた。


僕は瞳を爛々とさせたまま、にんまりと答える。



「僕は、あり一匹だろうが全力で殺しますよ」



ありの一匹であろうと、ズタズタに殺してやるくらいには。

僕の戦闘に対する執着は強い。



「……過激すぎだろ」


「戦って死ぬのなら、どんな場面でも本望です。

それで。人員が足りていないのはどこです?

僕は今すぐ行けますよ」


「…………」



如月は考え込んでいる。


僕の動きはさっきの試しで見ていただろう。

だから、きっと僕には同行者はいらないとわかったはずだ。


はずだったが。



「すまないが2人で行動してくれ。

それが我々にできるお前への精一杯だった。

すまん」


「2人?」




入れ、と木田が言うと、1人の男が入ってきた。



相変わらずの無表情に、無気力な瞳。

思わずその姿をガン見した。



「あ」



なんで蜘蛛にいるんだ、紅。

お前は今、一時的にルナに買収、され、て…。




そうか。


なるほど。

蜘蛛は抗議したんだ。

玄関口に僕が1人で来たから。


そして大慌てで木田に連絡した。


木田はおそらく僕1人で足りると思ったのだ。

または現状、ルナ自信対応に追われていて人員をさけないと判断した。


だから応援要請には応じたが、第一部隊全員ではなく僕だけを蜘蛛に貸し出した。


蜘蛛は僕が1人で来たことに驚いただろう。


それでも如月は僕を1人で戦場に行かせたくなかった。

だから木田に抗議をし続けた。


結果、一時的に買収されていた紅に白羽の矢がたった、という感じか。



ちなみににせの最高司令官をよこしたのは試しもあっただろうが、木田への連絡で如月が本当に来られなくなったからでもあったのだろう。


だからこそ杜撰ずさんだった偽物の最高司令官と警護8人。

連携が取れていないなと違和感はあったが、そういうことか。







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