第53話
「君が第一部隊指揮官、であってるかな」
ふざけた口調だった如月の雰囲気が変わる。
その口調も声色の変化も、早々に場を引き締める。
緩急がありすぎて風邪ひきそうだ。
その質問に僕は考える。
僕は元から出入り口で、第一部隊指揮官であるドッグタグを蜘蛛隊員に見せている。
その上、木田からは"第一部隊の指揮官として1人で出向"と言われているのだ。
これは答えて問題ない。
「そうですね」
「お前はどこまで教えてもらった?」
「さぁ…。肉壁でしかないので」
「またまた〜。通達されただろ。
お前にだって関係ない話じゃないのに」
僕は胸の中で舌打ちした。
こんな短い会話の中にブラフがゴロゴロ転がっている。
まず彼は最初、"どこまで教えてもらった?"と言った。
"この件"や"情報漏洩について"、とか具体的な内容を提示せずに。
それはつまり、本当に聞きたかったのは"お前はどれほどルナを知っているのか"だ。
次。
通達されただろ、の言葉で僕を動揺させようとした。
本当に知らないのならここで動揺しながら記憶を掘り出し始めるだろう。
知っている者だってそこまで言われれば自分の記憶を疑い始める。
そして極め付けは最後のセリフだ。
──お前にだって関係ない話じゃないのに。
さっきからの僕の返事で、如月は僕が"ルナについて本当にほとんど知らない"、と仮定して話を進めているはずだ。
わずかな情報しか僕は持っていないのだわかっていても、それを狙って誘惑してきている。
言い換えるのなら。
"お前にだって関係ない話じゃないのに、
気になるだろ?"
である。
如月が待っているのは、僕の"そういえば…"という言葉だ。
そんなものに乗ってやるかよ。
「さぁ?肉壁ごときですから、あなたの言っている意味がわからない」
如月は顔を歪めた。
それからパッと笑顔を作る。
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