第47話


「で?、とは?」


「…お前は死にたくて戦ってんのかって俺は訊いただろ」


「……ああ!そうだね。聞かれたかも」



すっかり流れてしまった話だったけれど、確かにそんなことを訊かれた気がする。


僕はうんうんうなった。



「うーん…。死にたいとは思ったことないよ。

生きたいって願望の方が強い。

まだまだ強いやつなんていっぱいいるじゃん?

出会えてないだけでさ。

だからまだまだ死にたくはないね」



なにより、と僕は告げる。



「君とまだれてない」


「………」



訊いてきたくせに紅からの反応はない。

なんで突然こんなこと訊かれたんだろうか。


僕が第一部隊で、何しているのか。

紅なら知っていそうだが。


それなのに、今更どんなことが訊きたいというのか。


紅がぽつりと言う。



「…戦って死にたい」


「…え?」


「だから生きたいし、死ぬ気はない。

そして自分を超えた者に殺されたい」



まさに僕が思っているまんまのことだ。

そう。

僕は、そんな状況で死ねたら幸せだと思っている。



「…それが?」



そう言うと、紅は"いや?"と言った。

彼はタバコをもう一本取り出して火をつける。


またぷかりぷかりと煙が浮かんだ。


掴めない人だ。

この煙のように。



「…そういう者はだいたい、

くだらなく死んでいく」



紅は大きな声を出さない。

けれどその声はとても耳によく入ってくる。


僕は訊き返した。



「くだらなく死ぬ?」


「そう」



意味が理解しかねる。


自分から真っ向に勝負せず、卑怯な手で殺されるって話だろうか。

それとも単純に弱いやつにふいを突かれて殺されるとか?


…いや、どれも違うだろう。



僕は腰を下ろして再び片膝を立てると、ナイフを握りなおし目を閉じた。



「どういう意味?」


「…………」



紅の師範、その生徒たちの話だろうか。

彼らがそう思って生きて、死んだと。


そういう話か?



「そういう考え持ってる奴ほど、

死ぬ時はあっけないものだ」


「まぁ、そりゃそうだろうね」


「で?」


「また来たよ。なに?」



今日の紅は聞きたがりだ。

珍しい。



「お前は戦闘に何を求めてんだ」



僕?僕が戦闘に見出しているのは。


なんだろうか。


スリル。

興奮。

命の実感。


どれも確かにそうだが、しっくりとは来ない。

僕は理論的に物事を見れないので、感覚で話すしかない。



「僕は、戦闘が始まるって思うと胸が高まる」


「……」


「戦闘中は胸が躍るし、

戦闘後は胸がしぼむ。

僕が戦闘を求めてる理由なんて、そんなもんだよ。

くだらなくても、これさえあれば僕は生きていける」


「…へぇ」



紅はほんの少しだけ目をすがめた。

彼にとって、僕の戦闘の理由はくだらないだろうけれど。


僕の生きる指針だ。


ネグレクトを受けていた僕は常に退屈だった。

いつ死んでもいいとさえ思っていた。


だから。


あんな刺激を受ければ、当然それに飛びつく。


ようやくいつもの日常から解放され、

さらに自分が身の危険を感じで防衛行動をとった。



それはつまり、僕はその時生きたがったんだってことだ。



感動した。

興奮した。


自分にそんな感情があることを。


自分の命がかかればかかるほど、その感動と興奮は続く。



だから、僕は戦闘が好きだ。







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