第46話
「紅」
「……なんだ」
「紅はさ。
初めて人を殺した時、どう思った?」
「………」
紅はしばらく黙っていた。
その間は耳に神経を集中しながらも、"休憩"の指示通りに目を閉じたまま呼吸を一定に保つ。
「それと、どんなふうにその技術を磨いたわけ?」
僕はいまだ鮮明に紅の戦闘が頭に焼き付いている。
初めて会ったあの日も、そして今日も。
あまりにも綺麗で、美しくて。
紅はいつだって無表情無気力に見える。
その仕事もまるで作業をしているだけのようで。
楽しさや興奮やスリル。
どれも足りないのは紅も僕と同じだとかってに思っている。
紅の戦闘はまるで、自分にも他の人間にも価値がないのだというようだ。
本当に間引き作業みたい。
「…俺のは
「師範?」
答えてくれたことにも意外だが、師範がいるということも意外だった。
紅に先生がいるとは。
どんな人なのだろうか。
「ね、ね。どんな人?紅より強いの!?」
思わずパッと目を開いて紅に詰め寄って行くと、わずかに紅が身じろいだ。
それにもかかわらず、僕は相変わらず続ける。
どんな人なんだろう。
絶対すごい人だ。
「俺が教えてもらってた時にはすでに歳が95超えてたからな。もう空の中だろ」
「えぇ…。…ってか、95歳まで現役ってできるんだ」
「実戦は生徒同士。師範は見て指摘するだけ」
「あ〜、そういう形式か」
「女の師範だった」
「女性だったんだ!?」
是非とも現役バリバリだった頃に僕と手合わせしてほしかった。
でも、〜流〜派とかなら、後継者もいるよね。
「後継者は?」
「いない。生き残っているのは俺だけだ」
「…それって君が後継者になるんじゃないの」
またゆらりと紅がタバコを吸う。
まるで終わった過去さえ他人事のように。
紅は心底どうでも良さそうだった。
「俺は後継じゃない。一番弱かった」
「えっ、君が弱い?」
「師範も呆れる弱さだった。
でも俺ができる範囲のことは教えてもらったからな。
独学も少し入っているし、後継とは言えない」
「そうなのか…。紅で弱いなら、他の人はどれほど強かったんだろ」
「お前に似てた。と言っても毛色が違うが。
常に戦前に立って、その力を振るうことに快楽を感じるタイプ」
「へぇ。変わってるなぁ」
「で?」
「え?」
紅は視線を僕に流した。
タバコを吸って、それを吐く。
ふわりふわりと煙が上がって見ながら僕は紅を見た。
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