第45話



「…どこであんな戦い方覚えた」


「さぁね。答えられること、僕は何も持ってないよ」



そう言うと、紅はちらりとこちらを見て視線を戻した。



「ルナになんて興味はない」


「そりゃよかった。

…でも紅がルナと敵対でもすれば、僕は大義名分を得て君とりあえるのに」


「…そうかい」


「あーあ。どっかに落ちてないかなぁ。

寝る暇もないくらいの戦場」


「…今回がそれだろ」


「足りないね」


「……」



紅はぷかりぷかりと煙を吐き出す。

僕も目を閉じたまま、安定した呼吸を繰り返す。



「…お前は死にたくて戦ってんのか」


「………」



死にたいから戦う?

そんなわけあるかい。


僕は長生きするつもりはないが、楽しめるうちは楽しいうちにめいいっぱいやりたいタイプだ。

それが戦闘の中だっただけ。



「…なんかいい場所ないかな」


「………」


「でもまぁ今の仕事には満足してるよ。

ルナよりも戦闘の現場に出られる、行かせてもらえる組織なんてないし」



寝るのは退屈だ。

今この時間さえ鬱陶しい。


そう思っていたら、

なんとまた──紅は2度目の笑みを浮かべた。

紅がクックと笑う。


僕は驚いた。

本当はよく笑う人なのだろうか。

…それはないか。


そうして紅は告げる。



「……俺が用意してやろうか」


「……え?」



うっすら目を開いて紅に視線を向けると、ふっとタバコの煙を吐き出していた。


俺が用意してやろうか。

…紅が僕に?

心踊る戦場を?


でも…。



「それはそれで面白そうだ」



僕は口端を上げたまま、再び目を閉じた。



生ぬるい風が肌を撫でる。

じわじわと朝もにじんできた。


紅はいつもの服装で、私服だ。

黒で統一はされているが、血がつくことを考えると洗濯はしやすいのだろう。



相変わらず建物の中はうるさいが、これは仕方がない。


そう割り切って、睡眠に向けて意識を傾ける。

眠れそうにないので思考にふけることにした。



おそらく引き金になった情報流出源はルナの関係者。


スパイだろう。


ルナにはブラックリストがある。

どうせそのブラックリストに書いてある人物の誰かが流したのだろうが。


ルナの情報管理は徹底していて、──コンピュータ関係は一度AIのテロがあってから、特に強度を増している。

コンピュータからは抜くことはできなかったはずだ。



だとすれば。


人間が流した。

としか考えられない。






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