第41話



4階と5階の制圧は約20分で終わった。

1〜3階に比べたら、戦力が無さすぎた。

その他全階層の残党狩りには約30分。



先行隊はどれだけ早く道を切り開けるかで、引き継いだ時に第二部隊のパフォーマンスが決まる。


慣れていない保護と制圧。

それに加えての長期戦。



それでもこんなにあっさり終われたのは、敵の考えが甘かったという理由もありそうだ。


4、5階には。

居場所がバレないだろうという慢心まんしんと、1〜3階の護衛たちに頼りきりで上に逃げてきたやつしかいなかった。


全く護衛がいなかったわけではないが、僕らを前にすればそれはボロい壁と同じだった。




隣にいる紅もきっとこんなのはつまらないだろうなと思った。


でもこの男は常に無表情だ。

戦闘中も変わらなかったし、無気力な瞳も変わらない。


まとっている雰囲気だってその間は何一つ変えなかった。


彼にとっては今日の戦闘には興奮する要素はなかったのかもしれない。

かわいそうに。



うんうん、と僕がかってに納得しているのを、紅は黙って見ていた。

そしてタバコを取り出し吸い始める。


ゆらりゆらりと煙が揺れた。


それをなんとなく見ていると、

ざざっと耳の通信機から音がした。

僕は耳を片手で軽く抑えた。



『指揮官。対象の保護完了。本部へ到着』


「おつかれ。こっちも終わった。

秋信あきのから連絡は?」


『お疲れ様です。秋信様は先ほど帰還きかんされました』


「了解。僕らも帰還する」


『了解。帰還報告しておきます』


「頼んだ。他の報告は僕からするから」


『はい』



ようやく一息だ。

しかし、それは同時に戦闘が終わったということでもある。



「あー。これから忙しくなるとわかってても少し…足りないなぁ」



この騒動はしばらく続くとわかっている。


情報が裏に知れ渡っているというのなら。


知れ渡った情報がこれ以上バレないよう。

さらに流出を止めて新しい人材の派遣。

その守り。

そして流出源の特定。


他にもやることはたくさんあるだろう。



表社会と"蜘蛛"への弁解と応援要請も必要になる。


その間の襲撃と突撃に時間を取られると考えれば、寝る時間も休む時間もあるわけがない。


それでも。


「休みたくないなぁ。

帰還なんてしないで次の現場飛ばしてくれればいいのに」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る