第36話



「なんだ。──秋信」


電話を代わった瞬間、紅がそう言った。

やはりルナの現状を知っていて来たか。


なんの目的だ。



「…ああ。…困っているように見えたから。

それだけだ」



紅はちらりと僕に視線を向けると、ふっとタバコの煙を吐き出した。


秋信が何か答えている。



「まぁ、これだけ騒いでれば情報が行き交いすぎて見つけられないわな」



ゆらりゆらりと紅の指に挟まれた煙が上がる。


僕は警戒を解かない。

のんびり待っているフリをして、いつでも動けるようにしていた。



「…で?」



ピリッとした空気が辺りを覆った。

隊員たちの緊張が高まるのを感じる。


紅は表情もその無気力な瞳も変えていない。


けれど、この場は今彼に支配されているとひしひしと肌が痛むように感じる。






こんな時なのに。

クソ…。








めっちゃくちゃ興奮する。









今殺し合いたい。

この冷気をもっと感じたい。

その全てが自分に向けられたなら。





そんなに楽しいことあるだろうか。






僕の顔は今、きっと盛大に歪んでいる。

満面の笑みで。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る