第37話



「へぇ。ま、それだけ出せるなら別にいい」



そう言い終わると、紅はスマホを僕に投げてよこした。

僕はそれを何なくキャッチすると、耳に当てて応答する。



百鬼きなりです」



さて、この2人は何をしたのか。



百鬼きなりさん。

酒匂しゅこうさんを一時的に買収したので、彼の情報に従って最後の1人の保護に向かってください』



なるほどね。

お金の交渉だったか。


ルナは今、金よりもっと重要なものがかかっている。

なりふり構っていられないから、あり得ない額を紅に提示でもしたのだろう。



「了解」



僕は電話を切ると、紅に向き直った。



「紅。君の情報に従って行動する。情報は?」


「…着いてこい。すぐそこだ」



そう言ってゆらりと彼が歩き出した。

僕らもついていく。



つまり、僕の勘は当たっていたってわけね。

最後の1人は誤報の場所ではなく、第一部隊がいるこの近辺にいるってこと。



紅の情報が確かかどうかを判断する時間はない。

その方法も今はないだろう。

けれど僕の勘は"紅の情報こそが正しい"と判断していた。



と、紅が足を止めた。

僕は隊員に待機指示を指で表すと、

紅の影から前方の様子を伺う。



目の前には薄暗いビル。

その裏口はいかにもな警戒体制が敷かれていた。



「さっすが。ビンゴ」



僕は小声で言った。

そうして隊員に向き直る。


それと同時に紅が口を開いた。



「…このビルは五階建ての屋上なし地下なし。

目標は3階。3階には隠し通路がある。

それはこの先にある下水道に繋がってる」


「了解。1〜20番僕に着いてきて。

21〜60は下水道に。

60以降は目標の奪取、保護に」


『了解』



紅はルナに買収されたのであって、僕が動かす権利はない。

秋信から指示をもらっているだろう。


紅はタバコが吸い終わると、ちらりとこちらを見た。








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