第31話

〜・〜




百鬼きなりさん。これで8名保護完了しました」


「了解。さっき残り4人のうち3人は死んだことと、最後の1人は場所が特定されたってことが通達された。

僕らはその最後の1人を回収に行く」


「了解」



ふぅ、と頰に付いた血飛沫を袖口そでぐちぬぐう。


今日も1日中、ずっと戦闘浸せんとうびたりだ。

楽しくて楽しくて口角が上がりっぱなしである。



最後の1人の元へ向かいながら、

僕はえへへ、えへへ〜と笑っていた。

隊員がドン引きしていたことに気づきもせず。


けれど頭では思考を止めない。




残り1人はおそらく拷問を受けているだろう。

必要な情報を吐かせるために。


おそらく死んだ5人は拷問に失敗して殺されたと考える。

重要な情報源を殺す理由がない。


拷問は時間がかかる作業だ。

相手も時間を稼ぎたいはず。

ならばこんなにあっさり早く場所がわかるのは不自然。



これはおそらく行ったとして、戦闘はできても保護に関しては無駄足になるかもしれない。



僕は戦闘ができればそれでいい。


しかしルナはそうじゃない。


指示された場所に行って保護対象がそこにいなくて、無駄足になったとしても。


指示を出してきたのは上だ。

責められる言われはない。




けど。




僕は向かってる途中で足を止めた。



「…予定変更」


「え?」



隊員たちが、足を止めた僕を見て次々に足を止める。

困惑した様子で僕を見ていた。


わかっている。

これは命令違反だ。



──ルナの命令違反は、処刑を意味する。




「し、指揮官。しかし、」


「待機だ」



僕は隊員の言葉にバッサリと言い返しながらも思考を止めなかった。

隊員がでも、しかし、と繰り返すがもう耳には入って来ていない。



敵が僕たちを誘導するなら、なるべく遠ざけたいはずだ。


ルナから指示された場所はここから遠い。

逆に言えばつまり、この近辺が1番怪しい。


ならば正確な情報が回るまで動かないのが適切な対応のはず。



僕らの相手をするためだけの足止めを用意するくらいだ。

相手は手練れだろう。


本当は誘導に従って今すぐ戦闘に行きたい。


それでも。


ルナが消えれば、今後こんな楽しい毎日は送れなくなる。



処刑なんてつまらない方法で死にたくない。



僕は、戦いの中で死にたい。

僕より絶対的に、決定的に強いやつに。








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