第30話



百鬼きなりすい。参りました」


トントンどドアをノックして声をかけると、入れと木田の声がした。


僕は扉を開く。



そこは騒然としていた。

走り回る人、人、人。


第一部隊の指揮官である僕は、こういう場に呼ばれることはほとんどない。

それは第二部隊以降の仕事だ。



すい。来い」



忙しそうにスマホを操作し続ける木田の声が部屋の奥からした。

僕は迷わず歩を進める。


木田の前までくると、木田はスマホを見て舌打ちした。



「悪いが秋信あきのの応援に行ってくれ」



それだけ?

わざわざ呼ぶような要請には思えない。

突然現場に行けと言われるなんて、いつものことなのに。



「その指示なら電話で足りたのでは?」


「ここからが本題」



なるほどね、と僕は気を引き締めて木田を見た目返した。



「はい」



僕ら第一部隊は普段、ルナの情報は詳しく教えてもらえない。

いつ死んでもおかしくないということは、最低限の情報しか持たせてもらえないということでもある。


捕虜にされたらたまったものではないので。



それなのに、その僕に対しての情報開示。

これから、事が動く。






「情報が流出した」





僕はさすがに目を見張った。


ルナの情報管理は生優しいものではない。


戦闘特化型組織"蜘蛛くも"と表社会に常に監視されているルナは、裏のことを全て徹底して管理してきたはずだ。


それは各組織の頭目たちには共有されているが、それが流出なんて。

あり得ない。



「ルナから表に行った、裏と表の情報管理をしていた協力者の情報が流出した。

秋信が対応に追われてる。俺も対応でここから出れない。

すでに裏には情報が行き渡っていて、協力者が次々に追われている。

回収に回ってくれ」



それは。

随分と物騒ことになっているのでは。



協力者は基本的に表社会の仕事しかしていない。

戦闘訓練なんてしていないのだ。



彼らは日中、表社会の中心に近い仕事をしている。そして裏に流せる分を選んで情報をルナに流す。


そしてその逆に、その協力者を使ってルナは裏社会の情勢を表社会と"蜘蛛"に共有する。



つまり簡単に言えば"最大の情報源"の居場所が流出したってことだ。



それも裏界隈にはすでに広まっていると言う。


ルナはこれ以上の流出を避けるためにも、協力者を守るためにも動かねばならない。



「…リストは」


「ここにある。急いでくれ。

この近辺にいるのは24人。

連絡がつながらないのが9人。

死んだやつが2人。

秋信が回収できたのが10人。

残り3人は場所がわかってるのに回収できてない。

連絡がつながらない9人と、回収がまだの3人を頼む」


「了解」



僕はリストを手に身をひるがえした。

そうしてポケットからスマホを出し、第一部隊に指示を出す。



「第一部隊、12人の保護対象者を目指す。

12人の情報は合流してから言う。

──出動、用意」


『了解』



僕はスマホをポケットにしまった。


隊員たちにはあくまで指示だけ。

詳しい内容を言うことはできない。


でもまぁ、ヤバいことになってるってのは伝わっているだろうけど。

こんな大騒ぎしてるし。



それにしても、裏界隈で広まっているとすれば。戦闘が増えるということで。






不謹慎だけど楽しみすぎる。





僕はにっこり微笑んだ。









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