第25話

〜・〜



「ねぇねぇねぇ!」



秋信あきのべにの話が終わったのを見計らい、僕はすかさず紅に話しかけた。


帰りたいのだろう紅は方向転換しようと一歩足を踏み出した。


そうはさせまいと咄嗟にその腕を掴む。

そのせいで紅の足が止まった。



「ね、ね。なら武器なしの手合わせでいいよ。

それならいいでしょ?

こんな現場だしさ、多少は壊しても問題ないでしょ?」


「………」



紅はちらりと現場を見た。

激しい戦闘があったその場は外壁以外ボロボロ。

建物は扉やらふすまやらすでに吹き飛んでいる。


これなら多少壊したとしてもなんら怒られることはない。


殺し合いがダメならばと僕は妥協案をだした。



「もちろん僕の戦闘訓練って目的で。

ちゃんと仕事としてお金も払う。

悪い話じゃないでしょ?ね、ね」



紅は前に向けたままだった顔を振り向かせ、僕を見た。

その瞳でじっと見つめられる。


それだけで僕の胸は高鳴る。


今、彼の視界に入っているのは僕だけだ。

1ミリの興味も殺意もなく人を斬れる、

この男の視線が。

僕に。



「……お前の個人的な仕事を引き受けるつもりも、金をもらうつもりもない」


「えぇー!そんな折衝せっしょうな」


「今後絶対ありえない」


「そんな言い切る!?ひどい!」



僕は掴んでいた紅の腕をぐぐぐっと引いて頼み込む。

なんでなんでと喚いていると、後ろから声がかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る