第26話

「うるさい」



そこにいたのは木田だった。

こんな陳腐な現場に来るとは珍しい。


最高司令官が来るような何かあったか?と思った。

しかしそれは、僕ごときの立場の人間が聞ける話ではない。



「木田さんじゃん」


「お前外でもうるせぇな」


「だってやっと会えたんだよ!?」


「お前…」



はぁ、と木田がため息をついた。

最近彼によくため息を吐かれている気がする。


しかし今はそんな時ではないのだ。

紅が行ってしまう。


と思った時、木田が口を開いた。



「お前、こいつと会う以前はむしろ静かすぎてただろ。戦闘の時以外。

無駄口なんて一切いっさいなくて、それなのに戦闘中狂ったみたいに笑ってる。

だから第一部隊だけじゃなくて全員お前のこと引いてたぞ」


「へぇー、そうなんだー。

それより紅!なんで僕だけダメなの!?

木田の依頼は受けるじゃん!」


「…………」


「なんでこいつと会ったとたんにそんなうるさくなるんだよ」



木田は鬱陶うっとうしげに顔を歪めた。

紅は僕から視線をそらすと、再びタバコを吸い始める。


それを眺めながら木田が本日何回目かもわからないため息を吐ついた。



「お前、相手してやれよ。

こいつほんとにうるせぇ」


「…………」



紅はふっと煙を吐き出す。

それが天に向かってゆらゆらと上って行った。

そしてぽつりと言う。



「こいつだけは絶対に無理」



………それって。

もしかして。



スイ。残念だったな。生理的に無理らしいぞ」


「そこまで言われてないじゃん!

木田さん酷すぎでしょ!

僕だって毎回毎回断られて傷心中なのに!」


「傷心してるやつはそんなにうるさくねぇよ」


「ひどい!」



僕はぎゃんぎゃん喚き立てる。

すると突然、紅の腕を掴んでいた僕の手が後方に引っ張られる。



「うっ、わ!」



予想外の出来事で、思わず後ろにつんのめる。

するとポスっと音がした。


振り返ると僕に掴まれていない手で紅が僕を引っ張ったようだった。



「え?…なに?」


「…………」



紅が僕をじっと見つめている。

僕はポカンとしてそれを見ていた。


ふいを突かれたのは久々で、それもあってあっけにとられていた。


紅は表情を動かさない。


僕は困惑して木田の方を振り向いた。

木田は驚愕の眼差しで紅を見ている。


ほんとに、なに?



「……別に」



そういうと、紅はパッと手を離して僕の腕も払う。

そのまま前を向いて歩き出した。



「あっ。ねぇ!」



紅を引き止めようと一歩踏み出した。

しかしそれを木田に引き止められる。



「お前は仕事だ」


「えっほんと!?やったー!

って紅!ねぇ待ってよー!」



仕事は楽しい。

でもきっと、紅と殺し合う方が、



もっと楽しいのに。




僕は今日もフられた。

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