第11話
〜・〜
カフェ『
綺麗な建物だ。シックな北欧風の建物。
中を覗くと、どうやらドリンクを会計してから受け取り、席に着くようだった。
僕はホットのブラックコーヒーを頼んだ。
店は混み合っていて、僕は一目惚れの人を探して視線を
キョロキョロ。
キョロキョロ。
…い、いたぁ!
一際目を引く漆黒が、
男が、いた。
僕はその人にゆっくり近寄っていく。
本当はここでナイフを振り翳し銃をぶっ放したいところがそんなことはしない。
第一印象は大切だ。
でもでも、嬉しすぎて鼻歌でも歌ってしまいそうだ。
「こんにちは」
顔を動かさないまま視線が
──漆黒がこちらを向く。
黒いV襟シャツに、黒のスラックス。
靴は動きやすそうなものだった。
癖のある髪が鬱陶しそう。
瞳にかかるくらいの長さで放置されている。
その瞳はといえば、無気力の一言に尽きる。
僕を見る彼は特に何も思ってないのか、
表情筋が死んでいるのか。
全くの無表情でこちらを見つめている。
「お兄さん、こんにちは」
僕はにっこりと微笑みかけた。
男は視線を窓に戻す。
特に返事はない。
「ここ、いいかな」
混み合ったカフェ。
2人席に1人で座る彼の向かいを指差し、僕はかってに腰掛けた。
彼はぼんやりと窓の外を見ている。
僕のことなんてまるで視界に映っていない。
「ねね、お兄さん。1人?」
「……」
彼は無言だ。
その表情も動かない。
でも僕はようやく会えた彼に対して興奮しすぎた。
つい大声で、言い放つ。
「だったら僕がナンパするね!」
周りの視線が一気にこちらに向く。
そうしてクスクスと笑いが起こった。
僕もくふくふと笑う。
それでも目の前の彼は表情も視線も変えなかった。
無気力で、無表情。
「僕、
翠って呼んでよ」
「………」
そっと伺いながら話を進めていく。
本当は胸がはち切れそうなほど興奮していた。
戦場で遠目にしか見れなかった彼が、こんなに近くにいる。
触れられそうな、距離に。
それなのに、絶対に触れることはできないんだろうなと思った。
あっさりと、きっとかわされてしまう。
「君の名前を聞いてもいい?」
「…………」
彼はつい、と視線だけこちらに向けてきた。
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