第3話

「……お前、戦闘狂すぎてバカになったのか」



木田がはぁ、とため息をついた。

そうして手に持っていた資料を放り投げると、ようやく僕に視線を向ける。



「第一番隊は隊員の入れ替わりが激しいのはお前もわかってんだろ。

お前だって例外じゃない。

そんなのにうつつを抜かす暇なんてないだろ」



この組織。

ルナのメイン戦闘部隊は第二番隊だ。

その部隊は他の裏組織に追随ついずいを許さない、圧倒的な戦力を持ってして戦場を駆け抜ける。





では第一番隊は何をしているのかといえば。


先行隊である。

つまり、メイン部隊が戦いやすいように道を切り開く方が仕事。


そんな仕事なもんだから、ほとんど肉壁と言っても差し支えない。







でも、僕は違う。








僕は14歳で戦闘に目覚めた。

初めての相手だったのは、体格のいい大人の男。


僕は当時骨と皮みたいに痩せていた。

家はいわゆるネグレクト。



そんな僕を見て、いいサンドバッグが見つかったと言わんばかりの男だった。

イラついていたらしい。



けれど。



気づいたら血まみれだったのは彼の方だった。



なんでもいいから八つ当たりしたかっただけなんだ。

殴るつもりなんでなかった。

セックスに誘おうとしただけ。

断られたらやめようと思ってた。



そんな言い訳をギャンギャンと並べ立てていた。


指をバキバキと鳴らしながら僕に近づいてきたくせに。

絶対殴るのが目的だっただろう。



今目の前には、

そんな叫びをあげる、

自分にとっての圧倒的強者おとこ



それを、僕が制圧した。



何をされるかわからない。

こんな小汚いガキ、殺されるまでサンドバッグにされていたかもしれない。



しかし、その絶対的強者を踏み躙ることが。

そのスリルが。


そして自分に"生きるのだ"と思える、

輝く心があったことが。




僕の胸を踊らせた。

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