2曲目 すれ違い

 そんな素直じゃない子どもは、素直になれないまま成長していった。


 ただ一つ変化したのは、中学生になって好きなバンドのことを話せる友人ができたことだ。

 その友人は私とは違うバンドのことがとても好きだった。一つ一つ曲の歌詞をノートに書き写していたり、中学生ながらライブに頻繁に行っていたりするほどだった。


「おとわちゃんは、好きなアーティストとかいるの?」

 音羽、というのは私の苗字だ。中学生の頃、苗字で呼び合うのが自分の周りでは小さな流行りだった。

 その問いかけがきっかけだった。素直じゃない子どもはそう聞かれて、

「……まぁ強いて言うならあのバンドかな、よく聞いてるし」

 などと実に曖昧な返答をした。

 しかし想定外だったのは、私の好きなロックバンドに関するその子の知識量が豊富だったことだ。その子は自分の好きなバンドはもちろん、ロックバンド全般についても、同世代と比べてかなり詳しかった。

 その子から得られる、自分がそれまで知りもしなかった情報は、とても魅力的だった。

 それから、その子とクラスが一緒だったこともあって、一緒に帰るようになったり、しょっちゅう遊びに行ったりするようになった。

 その子とは、中学校生活の中で一番仲が良くなったと思う。


 しかし、中学3年生の時、その友人と喧嘩をしてしまった。

 理由はよく覚えていない。だが、口を聞くこともできなくなったのは覚えている。

 元々私は気が強く、素直じゃなくて、誤解されやすい性格だった。その時も、何かを強く言ってしまったような記憶がある。後から別の友人にも「はやく謝って仲直りしなよ」などと言われた。

 しかし、素直でない私にそんなことできるはずもない。勇気を出して何度も話しかけても相手から反応はなく、参っていたかもあった。

 

 謝ると言っても、きっかけがよくわからないのだから何を謝ればいいのかわからない。

 もしかしたら相手は自分とはもう話したくないのかもしれない。私は素直になれないし優しくもない人間で、もうそんな私が嫌になってしまったのかもしれない。だから、話しかけない方があの子のためかもしれない。


 いや、違う。

 本当はわかっている。


 私はこれ以上あの子に拒絶されて、自分が傷つくのが嫌なだけだ。


 ***


 そんな時、好きなバンドが新曲を出した。

 その曲は春に関係した曲で、曲中、友人との何気ない行動や喧嘩にふれる歌詞があった。その歌詞がすごく好きだと思った。


 この喧嘩も後になったら、そんなことがあったな、なんて思えるんだろうか。


 そう思って何気なくSNSを開いた。

 心臓が跳ねた。

 なんと喧嘩中の友人が、私の好きなバンドの新曲の感想を投稿をしていた。それも、曲中で私が好きだと思った部分の歌詞についてだった。

 その投稿は不特定多数に向けられたものだったにも関わらず、自分一人へ向けた言葉のような気がした。


 何かに掻き立てられるように、自分も曲の歌詞の感想を書いて投稿した。するとそれに応えるように、また友人から曲の感想についての投稿があった。


 嬉しかった。


 曲が私と友人を繋いでくれたような気がした。

 曲の歌詞が、今年の春中学を卒業する自分達を言い表しているような気がした。


 結局、その友人と卒業までに直接言葉を交わすことも仲直りすることもなかった。

 しかし、その曲を通して彼女の心と繋がれたことは、それから何年経っても自分の心に残り続けている。そして、曲を通じて誰かと会話すらできることを、その時初めて知った。


 この曲は、高校生になった今でも大好きだ。

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