1曲目 出会い
小学生の頃、私は素直な子どもではなかった。
よく、母がCDプレイヤーやカーオーディオでかけている音楽を聴くのが好きだった。曲に合わせて動いたり、体でリズムを取ったりしたいとうずうずしていた。なのに、口では「音楽なんて興味ない」と言って、親にも友人にもそんなスタンスで接していた。
大きくなってから振り返ってみれば、そんな意地を張ってなんの意味があったのか、よくわからない。ただ、子どもだった自分にとっては重要なことで、というか一度意地を張ってしまったら簡単には撤回することができなかった。小学校高学年くらいのことだった。
だから、いつも音楽を聞く時は2階の自室にこもってこそこそとyoutubeを開き、ごく小さい音で再生していた。家族が階段を登ってくる足音が聞こえるとすぐに一時停止して、部屋の外の音に耳を澄ませた。家族が下りて行ったとわかると、また再生した。
そんな音楽の聴き方をしていたある日、何気なく再生した曲が強く印象に残った。それは兄が好きなバンドの曲だった。以前から、兄がそのバンドの曲を聴いているのを何度か盗み聞きしていて、気にはなっていたのだが、持ち前の天邪鬼さで気にならないふりをしていた。
しかし、その時はもう誤魔化せないと思った。それほどに、曲から得られる情報たちは大きく心を揺れ動かした。
ただ曲を聴いていただけのはずなのに、星空が見えたような気がした。その歌詞は学校でも家でもテレビでも、投げかけられたことのないような言葉の羅列だった。
型にはまらない、なんとなく少し変わっているように感じる音楽が、素直でいい子とやらからはみ出ている天邪鬼な自分にひどくぴったりに感じられた。
その時の感情は隠せなかった。
それ以来、そのバンドの曲をよく聞くようになった。
もちろん、他人にはそのバンドが好きだということは伝えられないままで。
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