音楽がなきゃ息ができない
いろは
0曲目 憧憬
その憧れに、届かないと知っていて手を伸ばした。
初めて参戦したワンマンライブの会場。圧倒されるほどの音と熱狂。ステージ上の彼らはそこで確かに存在していて、ただ自分たちの音楽をかき鳴らしていた。
バチバチと音を立てて、輝きが視界の端を通過した。その輝きは音に乗ってやってきたのだろうか、それとも音そのものなのか。圧倒されるように強い風が吹いて、ただ、そこに立ち尽くすことしかできなかった。
――あぁくそ。
――かっこいいな、ちくしょう。
ありきたりで平凡な毎日を送る自分が小さく見えるくらい、
ありきたりで平凡な毎日を送る自分自身が誇らしく思えるくらい、
彼らは眩しくて、孤高だった。
自分はどうしようもなくここにいて、同じようで違う場所で戦っていた。
どうしたって伸ばした手は彼らに届かなくて、自分と彼らは違う場所にいた。
ただ、彼らがそこにいて、世界に向けて体当たりしてくれているなら、自分も俯いてなどいられないなと思えた。
そこにいる、そこに立っている。その背景に、どれほどの苦労と重みがあるのかは自分には到底想像がつかなかった。
そのことを思えば思うほど、不思議なことに、自分自身が立っている場所も実感することができた。
自分は今、ここにいる。
今この場所に立って、ここに来るまでに色んなことがあって、辛くなって逃げたくなって辞めたくなった。
そうして今、ここにいる。
曲が終わり、長い、浴びるような拍手が降り注いでいた。
バチバチと輝きが通過して、生まれて、空間を取り囲む。
その輝きが、まぶたに焼き付いて離れない。
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