第6話 お花見してきた!
「この度はいきなりの予定に集まってもらってありがとうございます! じゃあ、今夜は無礼講ってことで! 乾杯〜!」
「「「かんぱ〜い!」」」
夜桜と提灯が灯る公園の中で、男女四人ずつの大学生は酒を片手に乾杯していた。
まさか本当に人数が集まるとは……。暇なのか?
洸成が肩を組んで、酒を注ぐ。
「はーいもっと飲めよ貴音〜!」
「おまっ、アルハラやめろ」
「ばっかシラフだよ。こういうのできるの貴音しか居ない」
「洸成…………」
「つーこってはい一杯!」
「おいカス」
とくとくとくとプラスチックのカップに15度のリキュールを注ぎつつ、飲ませようとグイグイくる。
コイツシラフなのか酔ってるのか分からないが、絡み上戸なのだ。高校ではこんなじゃなかったのに、大人になるとどうなるか人間わからない。
絡み上戸は往々にして鬱陶しい。あまり深酔いすると関わりたくない部類だ。
「てかお前、ゲームのイベントは?」
「? 回してるけど」
よくよく見ると、肩に回した手の方で携帯を操作している。片手で起用に周回をしていた。
こいつさてはシラフだな……?
「おい、お前」
「ご明察〜。オレのカップのはウーロン茶です。オレの分まで飲んで♡」
「カスめ」
「ハッハッハッ。花見の席だぁオレは周回終わったら女性陣に話しかけに行こうっと」
「勝手にしとけ」
「貴音こそ〜。黒舘さんはいいのかぁ?」
「なんでさ?」
俺の純粋な疑問に、嘆息を吐く洸成。さっきまでの浮かれた表情とは違い、呆れた表情でこちらを凝視する。
「ばっかてめぇあんだけ綺麗な人なのにここに来るってことは相手がいないってことだろ?」
「いやいや、そうとは限らないんじゃ」
「ともかく、バ先の知り合いのよしみなら相談くらい乗ってやれよ。ワンチャンあるかもしんないし」
「嫌なおせっかいを……」
「じゃ、オレは別の奴らに声かけつつ周回するから、また頃合い見てなぁ」
そう言って俺の返事を待たず、洸成は去っていった。強引な奴め……。
他の友人たちのもとへ向かう様子を見つめていると、今度は早野さんがこちらに歩み寄ってきた。先日とは違った落ち着いた服装と、片手には俺と同じようにプラスチックのカップを持っている。もう一方の手には何やらつまみらしき皿を携えていた。
「柳さ~ん。これいかがです?」
「早野さん。こんばんは」
「こんばんは~♪ 飲んでます~?」
「あはは…………」
それとない返事でかわしつつ、早野さんが持ってきたお皿にのったつまみをもらう。乾燥させたフルーツのようだった。甘いお酒に合いそうだ。
にしても初手から随分と飲んでいそうなご様子。変な輩が居たらすぐに持ち帰られそうで不安だ。俺たちのメンツじゃそんな雑食者はいないからまだ少しは安心だが。洸成は性格はあぁだが中身は割と俺に似て奥手だから、下手に誘われなければ大丈夫なはず。
それよりも、だ。鼻にくる強烈な香水の匂いに圧倒されている。苦笑交じりに俺は早野さんに疑問符を飛ばした。
「バニラっぽい匂い? ですか? すごい香ってきますね」
「あ、わかります? 私こういう匂い好きなんですよね~。柳さんはどういう匂いが好きとかあるんですか?」
「俺は……。よくわからないけど、シトラスとかの柑橘系。で合ってます?」
「ですです」
「多分そういうのが好きなんだと思います」
「へぇ~! いいですよね! たまに私もつけたりするんですよ~」
「そうなんですか」
色んな香水を持ってるんだろうな……。と思いながら、じりじり詰め寄ってくる早野さんに気後れする。興味のある顔を繕っていると、ふんわりとした笑みで香水の話をしてくれた。
「~でぇ。新しく駅前にできたお店にも行きたいなぁって思ってるんですよ~」
「あぁ、あそこですか」
「知ってるんですか~? 行きました?」
「いえ、まだ行ってなくて。興味はあるんですけど……どうにも」
「へぇ~」
「――――それより、結構飲んでますけど大丈夫そうですか?」
「大丈夫ですよ~」
このままだと誘われかねないと思って素直に話題を転換した。俺、偉い。
あのお店は桜庭と約束しているんだから、先に別の女性と行ったなんて知られれば……考えるだけでおぞましい。
早野さんは口では大丈夫と言いつつも、体を左右に動かしてぽわぽわとしていた。
これは駄目そうだな。
「一旦向こうでお水取ってきますね。俺も少し欲しいので」
「あ~、はーい。ありがとうございます~」
身体をするりと起こして、その場から去った。
あのままずっと話していたら恐らくあまり良くなかったろうし、何より黒館先生の方も気にはなっている。
歩いて、目立たない所に座っていた黒舘さんに話しかけにいった。
「黒舘先生。お疲れ様です」
「っ! 柳先生。お疲れ様です」
「すみません。いきなりこんな場に連れてこさせてしまって」
「い、いえ! そんな」
隣に座ることを許してもらって腰をかける。黒舘先生は大仰に手をふって付保イン委ではないと述べると、カップを手に取って一口飲んだ。
黒舘先生はあまり塾の方の歓送迎会に来ないため、普段の様子などはあまり知りえない。が、この様子を見るからには得意そうではないようだ。
――――つい洸成に言われたことを思い出し、声をかけた。
「何か悩み事でもあるんですか?」
「!? なんで」
「酷く考え込んでいるように見えたし……塾の中でも」
「っす、すみません」
覇気のある声で謝罪される。生真面目な性格が滲み出ているなぁ……と思いながら、手元にあったつまみを一つ掴んだ。
「俺で良ければなんでも力になりますよ。俺の力になれる範囲で、ですけど」
「柳先生……」
このつまみ美味いな……。塩味が効いててお酒に合う。さっきの甘いのも良かったけど、皆の持ってくるもののクオリティが高い。
黒舘先生は俺のそんな軽口に少しだけ心を許してくれたのか、少し悩ましげに口を開いてくれた。
――――なんか異様に、照れ気味で。
「柳先生」
「……? はい」
「私の――――――彼氏になってくれませんか!」
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