アルベルト視点・中

 実は、レイチェルには伝えていない情報がある。サルウェンが今まで彼女にどんなことをしようとしていたのか、について。


 サルウェンがレイチェルを婚約者として求めた理由は、家柄が釣り合いなおかつ控えめな性格だったからだ。数年かけて従順にさせて、結婚後も自分のハーレムを維持するために彼女は最適だった。

 しかししばらくするとそれが演技だということが判明する。レイチェルは頑張って猫をかぶっているつもりのようだが、結構早々にバレていた。

 そうするとサルウェンの計画はおじゃんだ。なんとか軌道修正するためにアイツが考えた計画は、早めにレイチェルを手篭めにして脅し、結婚後家に縛り付けることだった。



 レイチェルと初めて会った日、俺が彼女を傷つけなければ。あのままの笑顔の彼女と今頃幸せな結婚生活をしていたんだろうか。くだらないことで笑ったり、一喜一憂する姿を観察したり……

 サルウェンに目をつけられることもなく、平和に。


 2人のデートを邪魔するのは骨が折れたが、彼女に触れていいのは自分だけだという強い意志でなんとか回避させていた。

 2人がデートするという情報をタンザナイト家に居る密偵(シスコンな兄)から受け取りその周辺の下見や警備、サルウェンの動向を探って何か企んでいないかの確認、その対処、そしてさりげなくレイチェルへ忠告……


 特に植物園のときは苦労した。隠れて会話を聞いていたらハンカチのプレゼントなんて言い出すから慌てたものだ。なんとかレイチェルがスクリを嗅ぐ前に割り込めたが、うまい言い訳が思いつかなくて半ば強引に奪う形になってしまった。彼女はプレゼントを取り上げたことには本当に激怒していて、その後しばらくは声をかけても無視されてしまった。

 数々の事件のせいでレイチェルからは嫌われてしまったが、まあ会話のきっかけにはなったから良しとしよう。


 その事件の後、さすがのサルウェンも俺に計画がバレていると悟ったらしく接触してきた。仲間にならないか、と。

 なんとか荒ぶる気持ちを抑えて詳しい話を聞き出し、しばらく証拠を掴もうと動いてみたが気づかれて決裂。それからは彼女から離れるよう何度も説得した。



 らちが明かないから今までのことを公にすると宣言したのがあの日だった。案の定サルウェンは証拠などないと怒鳴りだし、無視して部屋を出ようとしたとき、レイチェルとぶつかってしまった。


 あの時のことはとても忘れられない。触れた背中の温かさ、腕にかかった重み、記憶に残る甘い匂い。そして、重なったくちびるの感触。

 信じられないくらい柔らかくて驚いた。脳が処理する前に反射で離れてしまったのが悔やまれる。今からでもやり直したい。

 ああ、どんな顔をしていたんだろうか。もう一度味わいたい。よし、ご褒美のための活力が湧いてきた。何秒間させてくれるんだろう。オプションでハグもしていいだろうか。恥ずかしがって真っ赤になってるのも可愛いが、それを隠そうと平気な顔を作っているところも見てみたい。


 よし、こんな古狸の顔なんてすぐおさらばしてあの可愛らしい顔を見に行こう。成果を報告してご褒美について触れて、初めての手紙の感想も言おう。


 そのために、20年前に情報操作のみで戦争を未然に防いだといわれる伝説の男に情報戦を挑む。

 テイラー・ヘマタイト、俺はこの男が喉から手が出るほど欲しがっているモノを持っている。


 必ず成功させる、必ずだ。




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