第4話 召喚系配信者、開き直ってしまう

 「今回、私の切り忘れにより衝撃的な情報を沢山漏洩しました」


 《そうだぞ!》

 《ねぇ男なの? 男なの? 嘘だと言ってくれ!》

 《どうやったらそこまで強くなれるの?》

 《マメちゃんずっと隣でお座りして尻尾フリフリしてるの可愛い》


 《久遠のレベルって?》

 《謝る事してないよ》

 《男って認めろよ》

 《ショックだぞ》


 《女だと思っていたのに。女装なんだよな?》

 《マジで許さない。今まで俺達を騙して来た事後悔させてやる》

 《はぁー〇ね。嘘つきが配信すんな》

 《先人達に謝るべき》


 様々なコメントが流れる。

 見ているだけで配信を止めたくなるね。


 ⋯⋯でも、俺は配信するのが中々に好きなんだ。止めたくない。

 騙していたのは確かだ。キャラ作りもしていた。

 だから俺は、この配信で伝えるのだ。


 「皆さんもお気づきの通り、私は⋯⋯私の中身は男です」


 《ほら!》

 《最悪》

 《俺は中身が男でも応援するぞ!》

 《嘘つき》


 《嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき》

 《中身髭生えた太ったおっさんだろ》

 《女の体でダンジョン攻略とかキモ》

 《マジできしょい》


 どうせバレているところだし隠しても仕方ない。女のフリを続けてもまたボロが出るだろう。

 だったら認める方が早い。

 ⋯⋯もしも俺と面識のあるギルド職員にこの配信を見られたら疑問を持たれるだろうが、その時はその時に考えよう。


 「この体に関してはある方法を使って変えています。女装と言うよりも体を作り替えた、この表現が適切かもしれません。方法の詳細は控えさせて貰います」


 外で召喚獣を出して魔法で変えてます⋯⋯なんて言えないよね。

 ま、半分近くもう切り忘れで晒してるけど。


 「どうしてこのような体を使って、そして女のフリをしていたのか⋯⋯理由を話したいと思います」


 冷たいカメラの眼差しを真っ直ぐと見詰め、俺がどうして久遠としてダンジョンにいるのか、話す。


 「ダンジョンは私達の生まれる前から突然現れた物です。今では一般化されていますが昔では危険視され、ファンタジーでした。だから私はダンジョンにいる時は現実とは切り離した状態でいたいのです」


 この体になると普段は出来ない事が出来る。その勇気が湧いてくる。

 性格とかも明るくなるし、体に心が引っ張られているところがある。


 「感覚としてはネトゲで女性アバターを使うようなものです」


 《ダンジョンをゲームとしてやってるって事? 命の危険があるのに?》

 《だから?》

 《さっさと配信止めて欲しい》

 《マジでなんなの?》


 「裏がバレてしまった今、猫を被る事はしません。ですが、一人称などは癖などで染み付いています。なのでこの体として発する言葉や態度はほぼ素だと思ってください。なので、方針はかなり変わると思うのですが、今まで通りの配信をするつもりです。もしもそれが気に食わず、そして中身が男と言う事実が嫌だと思うのなら、直ちにブラウザバックをお願いします」


 さて、言うべき事は終わったかな。

 俺は少し時間を置いてから、少しだけ態度を崩す。


 「騙していたのは事実です。ですが、この私も立派な久遠です。だから中身は考えず、表面上の私を見て、好きになってください。その期待に応えられるように、私は今まで以上に精進します」


 自然と零れる笑み。

 コメント欄をこっそりと確認する。


 《俺は応援するぞ!》

 《ぶっちゃけ中身関係無いし》

 《あっそ》

 《そろそろ強さに触れてくれ!》


 《重要な部分なのは分かってる》

 《久遠ちゃんは久遠ちゃん》

 《謝らなくて良いよ》

 《今までが理想的過ぎただけ》


 うん。中々に好印象。

 これからは猫を被らず、キャラ作りはしない。

 だけど一人称や喋り方の違いは本当だ。体が違うと心も変わる。


 「それじゃ少しづつになるけどいつも通りに行くね。後、私の強さをお見せします」


 まずは俺のステータスからだな。


 えっと⋯⋯えっとね。


 「レベルとかスキルとか確認しなくなってから数ヶ月。やり方を忘れたね。うん」


 《可愛いかよ》

 《中身男だぞ?》

 《目を閉じて念じながら目を開くと、画面が出るよ》

 《そう言えば久遠のレベルとかスキル一度も見た事無い》


 そうそう。そうだったな。

 目を閉じて、念じて、目を開く!


 レベル:99

 スキル: 召喚、盟約主、意思疎通


 これってカメラ越しでも分かるのかな?

 ⋯⋯相変わらず少ないスキルだ。

 もっと召喚獣を強化したり、自分も少しは戦えるスキルが増えるもんじゃないのか?

 裏技の弊害か?


 マメをわしゃわしゃと撫でながらステータス画面をまじまじと見る。


 《レベル99! カンストかよ!》

 《レベチやん。今までのハラハラが本当に嘘だった事に驚きだよ! ⋯⋯でも、自分を強くするスキル無いし実はそこまで圧倒的では無い?》

 《スキル少なっ! 自分の知ってるカンストレベルの人2桁はスキル持ってるぞ》

 《あれ? あんなに化け物の召喚獣いるのにユニークスキルすらないの?》


 《何やったらそこまでになるの?》

 《盟約主って何? これユニークスキルじゃないの?》

 《文字の色が金色だから通常スキルの中でも上位に位置するスキルだ。聞いた事無いけど》

 《スキルは普通だな》


 ユニークスキルは文字の色が黒らしい。

 さて、俺自身そんなに強くない事は分かって貰えただろうか。


 盟約の副産物で実は身体能力などが上がっていたりはするけど、あまり違いは無い。

 何でもかんでも報告する必要は無いだろう。


 「次に私の召喚獣の強さをご紹介。皆も気になってるでしょ! なので参考になるよう現在公表されている最高到達階層の250に行きまーす」


 《いや、参考にならん》

 《最高到達階層って今の日本の限界って事。トップって事。意味分かる?》

 《ダメだ。レベルが高すぎる》

 《おーい。誰か国家レベルの攻略組の人連れてこーい》


 《世界のバランスがこの子一人で崩される》

 《マジで世界の注目の的になるな》

 《少しは自重しようね》

 《もう開き直ったなw》


 俺はマメの力で250のボス部屋の前にやって来た。

 だいぶ前に攻略して以来、一度も来た事無かった。

 誰がボスだったかも覚えてない。


 「ま、良いや。召喚サモン、ナナエル、サズン!」


 「うひー」


 「ふははは! アーシ参上!」


 だるそうにぷかぷか浮かぶ、天使の羽と天使の輪、そして視界を圧迫する胸と眠そうな瞳。

 それがナナエル。


 活発で元気のありあまるテンションと悪魔の羽と角を持っており、ナナエルと同等の体格。

 それがサズン。


 ネーミングセンスが終わってるって? 今更だろ?


 「盟主、それでアーシ達を呼び出した理由は? いつもは構ってもくれないのに」


 サズンの突き刺すような視線から目をそらす。


 《お?》

 《召喚獣との絆は重要だよ? 放置かい?》

 《でもすぐに召喚に応じてくれたね》

 《仲は良いんだろ》


 俺は端的に目的を伝える。


 「ボスを一人で倒して欲しくてね。250階なんだけど、大丈夫そ?」


 「えーだ⋯⋯」


 嫌そうなナナエルの発言をかき消すようにサズンが前に出る。

 グイグイと来る感じが面倒であまり召喚してない弊害か。


 「まっかせなさい! この世十の一人、世悪せあくのサズンの名に掛けて!!」


 「あははは。その二つ名は止めない?」


 「止めない」


 サズンはナナエルを引っ張ってボス部屋に入って行く。

 ボスは巨大な炎を吐き出し纏うドラゴンだった。迫力が半端ない。

 俺がアイツの攻撃を受けたら即死だな。


 「まずはナナからやりなさい」


 「うぇ〜だ〜る〜い〜」


 「ならさっさと倒しなさい!」


 ナナエルとサズンの口論。仲良いな。


 《ドラゴンさんの前で呑気だなおい!》

 《敵さん日本が何とか倒せた相手です》

 《このドラゴン噛ませにされるんだ。そうなんだ》

 《日本の価値が下がりそうで草》


 ドラゴンがブレスを吐き出す構えを取った。

 マメは俺を守るために影を操るが、その必要は無いだろう。

 ナナエルは普段は面倒くさがりだが、俺へ殺気が向けられると反応が速い。


 ⋯⋯しかし、殺気の向ける対象が俺じゃなくサズンの場合反応はそこまで速くない。

 よって、ドラゴンのブレスが2人を包み込んだ。


 「なーにやってんの」


 ドラゴンが勝ち誇ったように、体内に溜まった熱を鼻息で吐き出す。

 しかし、ブレスを受けた2人は未だに言い争っていた。


 《無傷?!》

 《一瞬でバリア張ってた。何かの魔法だろ》

 《分かった! ここ250階じゃないんだ!》

 《ネットでちゃんとコイツの詳細出てるぞ》


 ドラゴンが爪での攻撃を繰り出す。

 振るうだけで炎を撒き散らし、地面をマグマに変える。


 「あ〜それは盟主に飛ぶ」


 ナナエルがクイッと人差し指を動かした瞬間、俺の頭上にいつの間にかあった光の矢がドラゴンの首を貫いて刎ねる。

 まさに閃光の一撃。誰も認識出来なかった。

 ただ一人、サズンを除いては。


 《何が起こった?》


 このコメントが皆の総意だろう。


 「マメだけの護衛じゃ不安だから、私を守るために最初から魔法を使ってたのか。気づかなかった」


 面倒くさがりの割にちゃんとしてる。


 「次サズン」


 「まっかせなさい!」


 《え、説明無し?》

 《スロー再生⋯⋯で分かるかな?》

 《ダメだ。情報の数は少ないのに大き過ぎて処理出来ない》

 《わぁあ》


 ボスを倒すと手に入る報酬は受け取らず、マメの力で一度ボス部屋の外に出て、もう一度入る。

 人がボス部屋の扉に触れると、それがトリガーとなってボスが部屋の中に召喚される。


 「さあ! アーシの強さをよーく見なさい!」


 チラッと俺の方を見る。

 張り切ってるらしい。


 ⋯⋯サズン、そんなに頑張るな。頼むから。


 ナナエルとサズンの強さは拮抗している。ナナエルが1割の力も出していなかったのにワンパンしたのだ。

 流石に強すぎる。だから、張り切るな。


 「喰らいなさい。これが破壊を司る深淵の力!」


 「あ、それはやりす⋯⋯」


 「深淵より厄災をカオス・カタストロフィ!」


 巨大なドラゴンを深い深い混沌とした闇が包み込み、闇が消えた瞬間何も残ってはいなかった。

 ドロップアイテムも何もかも⋯⋯元々そこにドラゴンは存在していなかったかのように。跡形もなく消えた。


 「どう! 盟主!」


 褒めて欲しそう。


 「うん。やり過ぎ」


 「え?」


 固まるサズン。


 「ふっ」


 鼻で笑うナナエル。


 「わぅ〜」


 慰めるように鳴くマメ。


 《ふむ。そうか。ここを命懸けで攻略してくれた英雄達に合掌!》

 《合掌!》

 《合掌!》

 《なんかあれだな。とにかく強いわ。うん。えぐ》


 《むしろ戦ってみたくなる》

 《もはや魔王だな》

 《昔の久遠は着ぐるみを着たTS魔王だったのか》

 《ナイフ1本で戦っていた時代が懐かしいぜ》

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