第2話
翌日、僕は秀才学園の入学式に参列する為、制服に着替え、朝早く家を出る。
学校まで徒歩で十二分。並木道を抜けて角を曲がればすぐそこに学校がある。
校門を潜り学園の敷地に入ると、僕はまず掲示板で自分のクラスを確認する。僕は一組だ。
掲示板の周りには僕と同じくクラスの確認にきた生徒で溢れ返っている。中学までは男子校だったから既に半数以上が女子のこの空間に僕は少なからず満足感を覚える。
僕はクラスを確認したので教室に向かう。まだ学校に登校してきている生徒は少ないようで、他のクラスの教室を見ても生徒はまばらだ。僕は自分のクラスの教室に辿り着くと、深呼吸をして引き戸を開く。
「あ」
僕の顔を見て硬直したのは懐かしい顔だった。
僕の席は牧穂の隣だ。僕は牧穂の隣に座ると、牧穂に話し掛ける。
「久しぶり。元気だった?」
「元気よ。そっちこそ変わったわね」
牧穂は僕との再会が嬉しいのか、頬を染めている。久しぶりに話すから少し照れくさいのかもしれない。これでも小学生の頃はしょっちゅう一緒に遊ぶほど仲が良かった。中学は私立の男子校に通うことになったので、会う頻度も減り、疎遠になってしまったが。
「久しぶりに見たけど、牧穂可愛くなったね」
「……そ、そう?」
「うん。びっくりした。思わずドキッとしちゃったもん」
「そんなのクタローだってイケメンになっててびっくりしたわよ」
「まあ一応中学は男に揉まれて育ったからね」
中学の頃はミスターコンテストと呼ばれる、校内一カッコいい男を決めるコンテストがあった。見た目、成績、運動能力の三段階で評価され、優勝者を決めるコンテストだ。うちの中学の男子はみんなこの優勝を狙って男を磨いていた。一応僕は三年の時に優勝している。
「牧穂って彼氏とかできたりした?」
「そんなのいないわよ。私、こう見えても一途なんだから」
「いや、垢ぬけた印象を受けたから彼氏でもできたのかなって」
「高校生になるからがんばったのよ。クタローは? 彼女できたの?」
「男子校だった僕にそんな出会いがあるはずもなく」
「そうなんだ」
牧穂はちょっと嬉しそうだ。
何を隠そう。僕は牧穂のことが好きだった。僕の初恋は牧穂だったといっていいい。小さい時から一緒にいるけど、思春期を迎えたら近くにいる仲のいい女の子を意識するだろう。そんな感じで僕は今でも牧穂を好ましく思っている。
だから叶うのならば記念すべき最初の彼女は牧穂がいい。三年間会ってなかったけど、幸い、まだ牧穂には彼氏がいないらしいし、僕の頑張り次第では彼女にできるかもしれない。
そう言えば、もうすぐ牧穂の誕生日だ。久しぶりにプレゼントを贈って好感度を上げよう。そんな計画を企む僕に、牧穂はきょとんとした表情で僕を見る。
「何にやにやしてるの?」
「いや、ちょっと」
「そういえばクタロー知ってる? 法律変わったの」
「ああ、一夫多妻制になったんだよね」
「少子化止める為にはしかたないわよね」
「それで、僕、重大な任務を託されたんだ」
「重大な任務?」
牧穂には話しておくほうがいいだろう。僕は自分に課せられた使命について牧穂に話した。
「そうなんだ。じゃあクタローはいっぱい彼女作るのね」
牧穂が少し寂しそうな顔をする。
「昔から僕はラブコメマンガの負けヒロインっていうのが嫌いだったんだ」
「私も苦手。なんだか可哀想に想ってしまうの」
「だよね。だから僕はずっと負けヒロインを生み出さない方法を考えていた。それで昨日その任務を託された時に思ったんだ。僕が全員幸せにすればいいんだって」
「クタローらしいわね」
牧穂が微笑む。
「やっぱり僕は牧穂の笑った顔、好きだな」
「もう、お世辞はいいわよ」
牧穂が顔を真っ赤にして照れる。牧穂は褒められるのに弱い。そうチョロいのだ。だから心配になる。他の男に褒められたら簡単に落とされてしまうのではないかと。
だから急がなきゃならない。牧穂を最初の彼女にする為に、僕は牧穂を口説き落とす。
そう決意を新たにしているところで、チャイムが鳴り、担任の先生が入ってくる。
「みなさん入学おめでとうございます。先生は担任の
担任の押江先生は黒板に自分の名前を書くと自己紹介した。眼鏡を掛けていて若い女の先生だ。大人の色香を漂わせており、その豊満の胸の膨らみに男子生徒の視線が集まる。髪は黒髪のポニーテールで非常に優しそうな雰囲気を纏った先生だ。
「それではこれから入学式がありますから、みなさん体育館に移動しましょう」
押江先生に促され、僕たち生徒は一斉に教室を出る。牧穂と一緒に並んで体育館に向かう。
これから首席としての仕事がるから、気を引き締めていかなくちゃ。新入生代表挨拶、噛まないように気を付けないと。
僕は気を引き締めて、体育館に足を踏み入れた。
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