世界で一番ハーレムな僕

オリウス

第1話

 ラブコメには負けヒロインがつきものだ。どんな良質なラブコメにも負けヒロインというものは存在し、読者の心を締め付ける。僕、小田久太郎は昔からこの負けヒロインが苦手だった。全てのヒロインに幸せになってもらいたい。主人公に全てのヒロインを幸せにする甲斐性があれば、負けヒロインなんて生まれないのに。ずっとそう思って来た。


「うー、雫たん、僕なら幸せにしてあげられるのに」


 呼んでいたラブコメマンガが完結を迎え、ヒロインレースにも決着がついた。もちろん勝ちヒロインのことも好きだが、負けてしまった哀れな負けヒロインのことも僕は大好きなのだ。

 だが、現実はそうはいかない。この世界では男一人につきヒロインはひとりまでと定められている。誰が作ったんだそんなルール。現実の僕にはまだ彼女がいないが、明日から高校生だ。僕のことを好きになってくれる子はみんな幸せにしてあげたいと思う。

 

「久太郎、少しいいか」


 父親が帰宅し、僕の部屋にやってきた。父さんが僕に話し掛けてくるのは珍しいと思い、向き合う。部屋に入って来た父さんは真面目な表情で「大事な話がある」と告げた。


「久太郎も明日から高校生だな。そこで、お前に伝えておかなければならないことがある」


 重々しい口調でそう言った父さんは、スーツ姿にネクタイをびしっと締めたいかにもな男だ。父さんの職業は政治家で、少子化対策を掲げ、僕が生まれる前から少子化問題と向き合っている。


「明日から法律が変わるのは知っているか」

「え、法律変わるの」

「お前はもう少しニュースを見たほうがいいようだな」


 法律が変わるのなんて全く知らなかった。基本、僕はラブコメマンガにしか興味はない。


「明日から一夫多妻制になる」


 そう聞いて僕は耳を疑った。今まで鎖されてきた複数のヒロインと結ばれるエンディングが可能になる?


「少子化に歯止めをかけるための政策だ。なぜ明日からかわかるか」

「いや、わからないけど」

「それはお前が明日から高校生だからだ」


 どういうことだろう。僕が明日から高校生になるから法律が変わった? さっぱりわからん。


「実はお前は国が予算を掛けて生み出した子どもなんだ」

「どういうこと?」

「お前には異性を引き付ける特殊なフェロモンが通っている。政府はお前に多くの女性と結ばれ、将来的には子宝を望んでいる」

「ええ、僕ってそんな重要な人間だったの」

「そうだ。そしてお前にはその任務を全うする責任がある。国が予算を掛けたからだ」


 いきなり責任と言われてもわけがわからない。だが、僕自身、負けヒロインなんて生み出したなくない。僕のことを好きになってくれるヒロインがいるなら全員幸せにしたい。その思いに偽りはなかった。


「お前には一夫多妻制の先駆者になってもらう。だからこそ、お前には国が特別にサービスをしている。たとえば、彼女を一人作るごとに百万円の支給がある。それから住居の用意。お前は明日から大豪邸で暮らしてもらう」


 確かに将来的の多くのヒロインと結ばれることになったら、住む場所は広くなくてはいけない。その配慮だろう。だが、いくら僕に女性を引き付けるフェロモンが分泌されているとはいえ、恋愛経験皆無な僕にそんな重要な任務が務まるだろうか。

 いいや、そうじゃない。やるんだ。僕はいつもラブコメマンガを読む度に思っていた。負けヒロインが可哀想だと。そんな負けヒロインを生み出さない為に、僕は甲斐性を見せなければならない。


「以上が、お前が明日から取り組むハーレムキングダムプロジェクトだ。何か質問はあるか」

「聞きたいことはやまほどあるけど。僕って父さんの子供じゃないの?」

「そうだ。実の子供ではない。優秀な遺伝子を組み合わせて生み出された特別な子供だ」


 確かに僕は昔から人並み以上になんでもできた。手先は器用だし、頭の回転は速いしで勉強に困ることもなかった。明日から通う進学校秀才学園にも首席で合格している。明日の入学式の新入生代表挨拶も任されているなど、重責を担っている。


「父さんの実の子供じゃないっていうのはちょっとショックだよ」

「安心しろ。私はお前を実の子供以上に大切に育ててきたつもりだ。その愛情は感じてもらえてると思うが」


 確かに父さんと母さんは僕をとても愛してくれた。何不自由なく暮らさせてもらったし、我儘もたくさん聞いてきてもらったと思う。今度はそんな両親に、いや、この国に僕が恩返しをする番だ。

 この国の繁栄の為に、少子化に歯止めをかける為に、僕はやる。世界で一番のハーレムを築いてやる。ハーレム王に僕はなる。

 僕のスペックは百七十五センチで筋肉もそれなりにある。運動神経抜群の秀才。習い事は護身術と逮捕術をずっとやってきた。自分でもスペックは高いと自負している。中学までは男子校だったから、女の子との関わりが無かった分、恋愛は最初は上手くはいかないかもしれない。だが、僕ならすぐに順応するだろう。せっかくこの手で負けヒロインを生み出さないようにできるんだ。やれるだけやってみよう。


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