比翼の鳥・後日談 《伊織サイド》

将臣まさおみさん、今日も帰ってくるの遅いのかしら」


 伊織は鳥籠の中の白い文鳥に話しかけた。

離れで暮らしていた時に将臣が書きつづっていた【道化どうけ】の自伝。

将臣に勧めて出版社に送らせたところ見事に書籍化して、帝都で大ヒットした。

続編を熱望されて、最近の将臣は帝都にある出版社に何度も足を運んでいた。


 その間、伊織は狭い部屋で一人過ごすことが多くなっていた。


   ◇◇◇◇   ◇◇◇◇


『私に?』


 将臣は照れ臭そうにそっぽを向きながら頷く。


『ありがとうございます…将臣さん』


 ある日、将臣から白い文鳥をプレゼントされた。

伊織はとても嬉しくて、その文鳥に「小雪」と名を付けた。


『将臣さん、私は大丈夫です。…私には小雪がついていますから』



 将臣の前では伊織はいつも気丈に振る舞った。




   ◇◇◇◇   ◇◇◇◇




「でもね。本当は…とても寂しいの…」

 

 伊織は思わず本音をこぼした。 

 すると小雪が柵の間から伊織の指をくちばしで突っついた。

 その姿はまるで慰めているように見えて、伊織の顔に自然と笑みが零れる。


「小雪、元気付けてくれるの?…ありがとう」


 コンコン。


その時、ドアをノックされて、伊織はゆっくりと玄関先に向かう。


「……私に電話ですか?」


 伊織は大家に手を引かれて、アパート1階にある電話機に向かった。


「はい。将臣さん?どうかなさったのですか?」


突然の電話に伊織は心配になって尋ねる。


「…え、今日は早く帰れる?…わかりました…! はい、待ってます」


 受話器を手に持ちながら伊織はとても幸せそうな顔をしていた。

 その微笑ましい様子を見て、大家が笑みを浮かべながら温かく見守っている。



「あ、将臣さん…………大好きです」


 そう言った途端、急に恥ずかしくなった伊織はすぐに受話器を置いた。

 



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