第9話

だが、彼がいくら嫌おうとも、そろそろ社交界に本格的に顔を出さねばならぬ十九になった今、護り方も変わり、父親ほど経験のない俺は抑え続けてきた心の揺れをついに今朝見せてしまった。

マリエットの言葉や、王宮に伺候した際の令嬢達からの視線。本来、影として持ってはならぬ馬鹿らしい独占欲だと自覚しながら。

影としての俺は主との関わりは終生離れぬものである事と知っているのに、人としての俺は環境の変化で“失われてゆくかもしれない何か”にこの頃酷く怯えている。

主に浮いた噂はなく、公爵家にその意向もないのに。

「遠乗りのあと、登城する前に母上にご挨拶していくか、ルシアス」

「はっ」

主の眼はすでに穏やかな光を宿していた。

窓から出て歩き出す主の背に俺は改めて呼び掛ける。

「お供致します。ティレージュ様」

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