第7話

いつの間にか顔を上げ、真っ直ぐに俺を見ている。

人を惑わすような深いサファイア色の瞳に浮かぶ、皮肉な輝き。

俺が心中ギクリとしたことなど、とうに見透かされている。

こうした時、俺の主はおそろしい程に美しい。

他の者ならきっと眼をそらすだろう。それほど強い、躊躇ためらいなく射抜くような、視線。

束の間、俺は後悔する。

女に引きずられ感情を多少なりとも見せた事を。今まではなかった事だ。

彼は合わせた視線を外すこともできず立ちつくす俺の動揺を見逃さず、薄い笑みをそのおもてに浮かべる。

「…やつ当たりか。俺に?」

笑みを浮かべたまま、風の様に近づいてきた主は、俺の髪の一房を指に絡めると、そのままおのれの方へグッと引き寄せる。

「っ…!」

「お前が俺を“ヴィットリオ”と呼ぶときは腹の立っている時だけだ」

「…よくご存知で」

「当たり前だ。何年の付き合いだと思っている。…ルシアス」

俺の髪を掴む力はまだ強い。

「今日は剣はいい。遠乗りにつき合え。夕方の王宮への登城には間がある」

「はい」

彼の言葉は強いが静かだった。

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