第5話

骨折り損のくたびれ儲け。

…ご苦労な事だ。

言葉尻に苦笑を滲ませながら、俺はいつも通り『主』をかばう。すると。

「そうやって貴方や公爵だんな様が甘やかすから奔放ほんぽうにおなりなのですよ」

マリエットは片手にかけた衣装を未練がましくチラリと見た後、軽く俺をにらむ。

「まあまあ、そう怒るな。あの方には私からも言っておくから」

だいぶウンザリしながらもそう言ってやるが、

「そうね。私からはお逃げになっても、貴方との朝の剣の鍛練にはおいでですものね」

マリエットの声は恨みがましいままだ。

しかし。その剣の鍛練の時間はとうに過ぎている。

流石にこれは初めてだ。

マリエットの話に段々と苛ついてくる。

主の気持ちを無視した女の戯言など聞き苦しいだけだ。

「聞いているの?」

が。

途中から俺はその愚痴を半分も聞いていなかった。

背後でかすかな物音がしたからだ。

勿論マリエットにはそれは聞こえない。

俺は背後の気配をそのままに話を切り上げる。

「マリエット、その話もいいが、そろそろ奥様のお目覚めの時刻では?」

公爵夫人は朝が弱く、お目覚めは他の方より若干遅い。

「あら、いけない。まあ。…奥様~」

マリエットは今度は反対の方向へちょこちょこと駆け出していく。

それを見定めてから俺は扉を閉じ振り向く。

「そこは貴方の為の出入口じゃないんですがね」

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