第3話
身体の中から、何かが抜ける様な感じがしながら頭の中に次の言葉が浮かび上がる。
『名称 カビリエンス
ダンジョン内部のマナに反応して発光する物体』
この発光している苔…いや、カビリエンスの詳細がはっきりと分かる。
『情報観測者』は、僕の右手で触れた物体の情報を観測し、言語化して詳細に纏めたり、そのままの内容をコピーして頭の中に流れ込む能力だ。
戦闘には使えないスキルだが、それでも使い勝手が良いスキルだろう。
それに、スキルは増えていくと言う。
スキルはモンスターを倒していくと、いきなり新しく追加で貰えるらしい。
詳しい基準値はわからないが、レベルアップとよく似ている様なモノなんだろう。
心も身体も全く落ち着かない。
顔のニヤつきがどうにも収まらない。
体に至っては力が溢れてくる。スライムを殺した影響だろうか?
カチャ、カチャ。
後ろから物音がしたので振り向くと、他の人が階段を降りてきた様に見えた。
人の邪魔にならない様に、スライムからドロップしたアイテムを確認せずにポケットに入れ、ダンジョンの奥へと歩いて行く。
別に、ダンジョンは狭くはないが、興奮が僕の足を速めていた。
(このまま、他のスライムもブッコロしていこ!)
スライムは動いてないだけで、壁や地面に張り付いている。
一応、上も確認しているがスライムはいない。
なので、これからスキルを得る為にスライムを放火していこう。
アルコールを左手に、マッチの箱を口に咥えながら右手でマッチに火を点ける。
1,2,3,4...
ドロップアイテムを拾う事も忘れない。
スライムのドロップアイテムは無色透明で小さな”石”だ。
掲示板やSNSでは”魔石”や”スキルオーブ”の類なんかじゃないかと噂されているが、現在の所、何もわからない。
世界各国の研究機関で調査されてはいるが、何に使えるのかも何もわかっていないのだ。
故に、買取価格も1個50円と、クソみたいな値段なのである。
(そういや、武器の類で倒すと、その武器が強化されるんだったっけ?)
スコップを取り出して、燃えているスライムに突き刺す。
刺さりはしないが、これで武器も強化されるのだろうか?
「観せろ」
スコップの情報を読み込む。
『名称 スコップ
土砂を掘ったりするのに使う道具。』
文面ではこう書かれているが、頭の中に入ってきた言葉以外の情報によると、魔力が少しだけ内包されている。
ほんの少しは強化されているようだ。
スライムを燃やしながら、ダンジョンの奥に歩いて行くと別れ道に着いた。
どうやら、ここからはマッピングしなければいけないらしい。
ダンジョンの中では電子機器は使えるが、GPSなどの位置情報はバグってしまう。だから、こうやって一つずつ作っていくしかないのだ。
本当は、先に入った自衛隊達による地図があるんだろうが、一般公開はされてはいない。
リュックからメモ帳とペンを取り出して描いていく。
一通り描き終わったら、進むことにした。
(右か…?それとも、左か?)
確率はニブイチ。
間違っても一層では死なないだろうが、やはり最初は当たりのルートに行きたい。
(あ、せや。)
別れ道の中心部分に右手をあててスキルを発動する。
「観せろ。」
観るのは人の情報と、ダンジョンの情報。
足跡や、魔力の流れを観ていく。
(魔力の流れで何かが分かると言われても、何も分からないが…こうやって情報を集めて行く事は悪くはないだろう。)
人の足跡は左の方に向かったのが多かったが、左の方の道を観てみると、その人数分帰ってきている事がわかった。
(つまりは右やな。)
早速、右の通路側を進んでいく。
23, 24, 25, 26, 27...
スライムは燃やすのにかかる時間は約20秒。
だが、奥に進めば進むほど、燃えるのにかかる時間は増えていく。
そんな事を考えていると、大きな広場に出た。
そこには他の冒険者がいた。どうやら、奥の大きな扉が開くのを待っているらしい。
(あれが、ボス部屋か…)
階層ごとにはボス部屋が存在し、それをクリアする事によって下の下層に行くことが出来る。
そして、ここで重要な事が一つある。
それは、”どちらもいなくならない限り、開くことはない”という事だ。
ボスを倒すと、景品が貰える。そして、下の階に行く階段か、入り口の所に戻る転送魔方陣が出る。最後に、冒険者が脱出するか次の層へと行くと、扉は開く。
これは、逆に言えばダンジョンボスから逃げようとしても逃げられないという事である。
まぁ、あの扉が破壊出来ないかどうかはわからないが。
そして、それは同時に恐怖でもあった。
たかがスライム。だが、勝てなければ死ぬ。
いままで倒してきたスライムは燃やせば勝てた。だが、それで本当に勝てるのだろうか…という考えが彼らの中にはあった。
もちろん、講習会では第一層のボスの正体はわかっている。
名前は”ビッグスライム”。
アメリカの学者アラン=ベネットが命名したこのボスは、通常のスライムと同様に火や電気などが弱点だが、多少の耐性を持っている。
そして、しっかりとした攻撃もしてくる。
速度は人間よりもほんの少しだけ遅いが、その”ビッグな”体での体当たりは場合によっては、大けがに繋がる。
現に、2週間前にブラジルの方でアルコールのお金をケチって、素手で倒そうとした人間が死亡したとネットニュースに載っていたはずだ。
リュックの中に残っているアルコールは二本。
(移動しながらアルコールをかけたら、倒せるはずだ。)
実質、初めての戦闘だ。
これまでの駆除作業とは、訳が違う。
ひとり、またひとりと順番に入っていく。
5分か10分か。
時間はまちまちだが、スライムに捕食されている途中の死体として出てきてない辺り、順調に成功している。
ドキドキする胸を押さえつけ、目の前の扉に人が入っていくのを見る。
そう、次は僕の番だ。
あらためて、装備を確認する。
マッチの本数は半分以上残っており、予備で作った蝋を被せた防水マッチもある。
燃やすための燃料も沢山ある。別に、これと言って構える必要はない
だが、怖いわけでもないのに手に持っているスコップが震えていた。
(なんか、今から受験でもするような…そんな感じだな…)
スコップを軽く自分の足に叩きつける。
緊張はほぐせ。
頭は冷たく、心は熱くあれ。
そして、体は最高に自分に適した
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