第24話 軋み
「そんなことはないだろ」
第六層のボスモンスターに挑戦する、というカイニスの無謀な言葉をシエルは否定した。シエルの紺色の瞳が、まっすぐにカイニスの姿を射抜いていた。その瞳は冷たい色を帯びているように見えた。それでいて、その瞳の奥には強い感情の炎がくすぶっていた。
「なによ、パーティーリーダーはあたしよ」
「それにしたって無茶だ。今日中に六層まで到達するのはかなりきつい」
自身のパーティーリーダーの立場を主張するカイニスにシエルは重ねて忠告した。
今回の探索で第六層まで降りることは困難である。それが、シエルの
「第一、今日は午後からの探索だったんだから、
シエルはまたもカイニスに言い募る。その言葉にはどこか焦りがあった。いつものシエルよりも口調のスピードが早い。
「さっきの戦闘でアニスは大丈夫ってわかったでしょ。過保護すぎるのよあんたは。あたしだって、まだ魔力に余裕があるし」
しかし、カイニスは鼻で笑ってシエルに反論した。魔力に余裕があることを示したいのか、所持している身の丈ほどの杖を掲げて、頭上で円を描くようにくるくると回していた。
「しかし、カイニス。まだパーティーも新しいメンバーになったばかりであるし、余裕を持たせたほうが」
ロキもシエルの意見に同意する。その金の瞳はサングラス越しであっても真剣さが伝わるようだった。しかし、その言葉はむなしく、カイニスに届かない。
「余裕を持たせたら、第六層のボスモンスターなんて倒されちゃうじゃない」
「ボスモンスターを倒して大金を得るより、命が大事だろ」
「知らない階層でもないんだし、大丈夫よ」
「そんなことはない!」
シエルが叫んだ。両手は固く握られていた。その声はまるで悲鳴のようだった。
その言葉を放った後、シエルはハッとしたように周囲を見渡した。目の前には驚いたようなカイニスの顔。シエルはその顔を見るとゆっくりと深呼吸をした。
「ダンジョンはいつだって命の危険がある。冒険者が自分から死ぬ可能性を上げてどうする」
深呼吸をして落ち着いたのか、シエルの声は先ほどのように大きくはなく、落ち着いていた。しかし、その言葉は真剣で悲壮を帯びていた。シエルの様子にカイニスが少したじろいだ。しかし、カイニスはふいっとシエルに背を向けた。
「とにかく、あたしは第六層まで行くから」
そう捨て台詞のようにカイニスが言うと、彼女は早足にダンジョンの先に歩いて行ってしまった。
カイニスが放ったその言葉に、一瞬ポカンとする三人。その言葉と行動を理解したとき、アニスがカイニスの名前を叫んだ。シエルもカイニスを追うことを決断する。ダンジョンにおいて、単独行動は危険だ。しかも、カイニスは迷いの森にまで行こうとしている。
「あっ、カイニス!」
「クソッ、追いかけるぞ!」
「承知。……カイニスがすまぬな」
ロキが二人に申し訳なさそうに謝った。
シエル、アニス、ロキの三人はダンジョンの奥に進むカイニスの後ろ姿を追いかけた。
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