第25話 迷路の先へ

 普段はこのあたりを狩場にしているのか、ダンジョンの奥に進むカイニスの足取りに迷いは無い。


 現在はダンジョンの第四層。カイニスを追い始めて、すでに三十分以上は経過していた。三年間引きこもって過ごしていたシエルの息は、今や上がり始めていた。

 はじめは早足だったカイニスの足取りは、今や競歩や駆け足ほどになっていた。しかし、足取りに対しての速度は見た目以上で、階層を降りるごとにカイニスの速度は上がっていた。一方のシエルたちはどうにか追いかけつつも、微妙に届かないといった距離感を維持していた。

 カイニスは火と風の魔法が使えると言っていた。何かしらの風の魔法を使って、速度を上げているか、こちらの進行を妨害しているのかもしれない、とシエルは思った。

 全力で走らないのは、おそらくモンスターとの戦闘を警戒してのことだろう。シエルたちもカイニスを走るスピードを上げて追いかける。


 第四層もほとんど終盤に差し掛かっていた。カイニスは曲がり角でちらりとシエルたちの方を見ると、一瞬だけ口元をゆがめ苦々しそうな顔をした。しかしそれもつかの間、カイニスは曲がり角の向こうに姿を消してしまった。


「ぜえ、カイニス、意外とっ、足が、速いな」

「シエルはちょっと体力がヤバいね。大丈夫?」


 シエルは顔を赤くして、息を切らせながら言った。ほとんど全力疾走しながら話したためか、話した直後に咳き込んだ。

 一方のアニスは涼しげな顔でシエルと並走している。シエルはそんな様子のアニスを息を切らしながらうらやましそうに見つめた。


「よろしければ担ぎますかな?」

「大丈夫っ、だ」


 後ろからロキがシエルに話しかける。こちらも涼しげな顔で隆々とした筋肉質の腕をシエルに差し出した。しかし、シエルも男としてのプライドがあるのか、ロキの申し出を断った。


「というか、ロキは、道がっ、分かるなら先に、ヒュウッ、行っっても、いいんだぞっ」

「いや、拙僧はこのような石造りの場所の道を覚えるのは苦手でしてな。森の中なら比較的迷わないのですが」

「そうかッ」


 絶え絶えの息でロキに提案するシエル。しかし、ロキは申し訳なさそうにしながらシエルの提案を断った。


「シエル、わたしが先に行こうか?」


 アニスがシエルの提案に反応した。心なしか、好奇心で目がキラキラしている。


「アニスは迷うからッ、駄目だ。ただでさえ、迷宮初心者なんだから、これ以上に下手な行動は慎んでくれっ!」

「はぁい」


 しかし、シエルはアニスの提案を断った。アニスは素直に引き下がった。


 カイニスがついに第四層と第五層をつなぐ階段を下りる。硬質な石造りの階段に硬いブーツの音が反響して響いていく。

 シエルたちもカイニスを追って、ダンジョンの石造りの階段を下りていった。


「わぁっ!!」


 階段を降り切った先、そこに広がっている光景を見たアニスの口から驚きと感嘆の声が漏れた。

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