18件目 こっちも裸になったら

 食器を洗い終えたところで、ちょうど響子からメールが返ってきた。


『へー、よかったじゃん。それで?付き合ってんの?』


「なんか反応薄いなぁ…」


 それにこれ、付き合ってないっていうのバレてるのかな…。


『なんというか…いろいろあって、付き合ってはないかな』

『なにそれ、どういうこと?』

『お互い好きって伝えあったけど、それ以上には行ってなくて…』

『いい歳してなに可愛らしい恋愛してんの(笑)』


 画面の向こうで嘲笑する響子の顔が容易に想像できてしまい、少しだけむっとなってしまう。


『そっちなんて、いい歳して恋愛経験ないくせに!』

『次にそんなこと言ったら、お兄さんにアンタの職業教えるからね』


「えぇっ、それはちょっと困るなぁ…」


 癪だけれども、今だけは素直に謝っておこう。


『はい。大変申し訳ございませんでした』

『分かったならよし』


 メールが終わり、時計を確認する。

 何か大切なことを忘れてるような…。


「あっ、康太くんの着替えだっ!」


 慌ててタンスの中を漁る。


「確か、男物のパジャマの資料で買ったやつがあったはず——そうそう、これこれ」


 彼がお風呂に入ってから二十分以上が経った。人によってはそろそろ出てくる頃だろうと思い、そのパジャマを急いで持って行く。


「康太くん、着替えはここに置いておくわね」

「あっ、ありがとうございます」

「えっ——」


 時が止まったかのように感じた。

 脱衣所の扉を開けたそこには、既に裸の康太くんが立っていて、体を拭いているところだった。

 服の上からだとあまり分からなかったけれど、案外筋肉質だ。

 特に深い理由があったわけではなく、視線をゆっくりと落とすと、そこには康太くんの大きなものがぶら下がっていた。


「あっ、えっ…。ご、ごめんなさいっ!」


 私の視線に気づき、彼はようやく状況を理解したのか、慌ててタオルで体を隠した。


「わ、私のほうこそ急に入ってごめんね!こっちも裸になったらおあいこなのかな…っ!?」


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 突然訳の分からないことを言って、里見さんはTシャツの裾に手をかけた。

 それをぐいっと引き上げ、その中から黒の下着と、それに包まれた柔らかな胸が露わになった。

 だめだ、この人完全に混乱してる。


「落ち着いてください、俺は大丈夫ですからっ!向こうで待っててください!」


 なんとかTシャツを押さえて阻止する。そして、里見さんを脱衣所から追い出すことに成功した。


「まさか、あそこまで慌てるとはなぁ」


 体を拭き終わり、持ってきてくれたパジャマに手をかける。


「あれ、これって——」


 上下ダークブラウンで統一された無地の物。ガーゼ生地で、通気性がよさそうな半袖のTシャツとズボンだ。

 多分だけど、これって男物だよな…?何回か洗濯しているのか、里見さんと同じような匂いがするし…男友達のやつか…?家に泊まりに来る男友達……。

 なんかちょっと、嫌だな——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る