14件目 お泊まりをすることになった

「ついに来てしまった……」


 昨晩、里見さんからの電話があり、お泊まりをすることになった。

『明日、泊まりに来て!』と力強く言われたもんだから、俺はついつい『ひゃい!』とだらしない返事をしてしまった。

 もう何度も会っているのに、緊張してしまっている。やはり、仕事で会うのとは違うということか。


「最後に異性の家に行ったのって、中学生の頃なんだよな……」


 そんなことを呟きながら、震える指先でインターホンを押す。

 今更だけど大丈夫だよな、変なところはないよな……?この服、シンプルすぎたか?地味だって思われないか?

 考えれば考えるほど止まらなくなる。

 そんな俺を出迎えてくれたのは、いつもよりもほんの少し大人びて見えるような里見さんだった。


「いらっしゃい。急だったのに、来てくれてありがと」

「いえ、里見さんに呼ばれたら、いつでも喜んで来ますよっ」

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ。ほら、入って入って」


 やばい。やっぱり今日の里見さん、いつもより綺麗だ。

 笑みを浮かべる彼女に目を奪われ、ふとそんなことを思った。

 呼吸をすることさえ忘れるほどに、彼女に見入ってしまっていた俺は、咄嗟に口から小さく空気を吸い込んだ。

 そして、とんでもないことを口走る。


「——里見さん、好きだ」


 俺の手を引く彼女だったが、急に足を止めて振り返った。


「ふぇっ…」


 憂いを孕んだような切れ長の瞳を真ん丸にし、可愛らしい声を漏らす。

 それとともに、俺も同じように『へっ…?』と情けない声を漏らしてしまった。

 俺、今なんて言った……?

 目の前の里見さんは、顔を伏せて俺の腕を軽く引いた。


「エアコンもつけてるし、中に入ろっか…」

「あっ、はい…」


 部屋に入り、ちゃぶ台の横に腰を下ろす。

 必要以上に喉が渇き、出された麦茶はすぐに飲み干してしまった。

 目の前に座っている里見さんも、ちょっと居心地悪そうだし……やっぱりそうだよな。


「「あの——!」」


 先のことは謝ろうとした途端、二人は声を合わせた。

 彼女は、困ったようにくすりと笑い、言葉を続ける。


「あの、さっきなにか言っていたけど、よく聞こえなくて……」

「あっ、あぁ、えーっと、すき……そう、すき焼きが食べたいって言ったんですよ!」

「そうだったのねっ。それなら夕方くらいに一緒に材料を買いに行こっか!」

「そ、そうですねっ!それがいいです!」


 我ながら、なんとも不甲斐ない誤魔化しかたをしてしまった。

 でも、これでいいんだよな……?

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