13件目 プロポーズみたいな……!?

「連絡先っ、交換…しない…?」


 唐突なその言葉に、情けなくも俺は驚きを隠せずにいた。

 

「レンラクサキ……」

「そ、連絡先。康太くんの携帯の番号教えてほしいの」

「ケイタイノバンゴウ……」

「ちゃんと聞いてるのー?」


 目の前で手をひらひらと振り、俺の意識を引き戻す。


「あっ、えっと、なんでしたっけ」

「もぅ、やっぱり聞いてなかった。あのね、康太くんの携帯の番号を教えてほしいの」


 どうして、なんて聞くのはよくないのだろうか。俺は素直に従うことにする。


「それじゃあ、この伝票にメモしておきますね」

「ありがと。これでいつでも康太くんの声が聞けるわね」

「えっ…、そ、それは…、そうですね…」


 里見さんは満面の笑みを浮かべているが、これは本気で言っているのだろうか。

 好きな人がいるって知らなかったら、確実に勘違いしてたよな…。


「そういえば、昨日渡されたあの絵は…!」


 ばつが悪くなり、話を変える。純粋に気になっていたというのもあるが。

 里見さんは頬を紅潮させ、言葉を詰まらせながらも説明してくれる。


「え、あっ、あれは、その……そう、響子がねっ、あれを渡したら康太くんが喜んでくれるだろうって言っててね!」

「なるほど、そうでしたか……。あの絵って多分、結城そまち先生のやつですよね。あの描き方は絶対にそうだと思うんですけど、どのサイトを見てもあのイラストは見つけられなくて。響子さんはいったいどこであれを……」


 うーむ、と唸っていると、目の前の里見さんはさらに頬を赤く染めていた。


「こ、康太くんは、その人のこと知ってるの?」


 今にも消えてしまいそうな声で問いかける。


「もちろんですよ!性別も年齢も不詳のスター。イラストや恋愛描写の繊細さから、一部では女性なのではと噂されていたり、女キャラの身体のリアルさから、かなり女遊びをしているイケイケな男性かもしれないとも噂されている、あの結城そまち先生ですよ!」


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 目の前で康太くんが私を褒めている。正確には、エロ漫画家である私——結城そまちのこと。

 響子のせいにしたのは申し訳ないけど、まさか康太くんが私の作品を知ってくれているとは。

 実は、私が結城そまちなのって言ったら康太くんは喜んでくれるのかな……?


「ね、ねぇ、その…結城そまちって人のこと、康太くんはどう思う?」

「尊敬してます!」


 まさかの即答。なんだか恥ずかしくなる。


「じゃあさ、その結城そまちって人が26歳の独身女性だったとしたら、康太くんは結婚したい……?」


 少し攻めすぎただろうか。

 これって、ほぼプロポーズみたいな……!?

 康太くんは、軽くあしらうように笑い、答える。


「——それはないですね」

「へっ……」


 ふ、振られた……?


「尊敬はしてますけど、それだけで急に結婚までしたいとは思いませんね。そもそも、どんな人なのかも分からないですし」


 彼のそんな言葉も聞こえなくなるくらいに、私の頭の中では『それはない』と言う言葉が反芻していた。


「あれ、里見さん聞いてます?おーい」

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