11件目 相変わらずだな、この人は

「お届け物でーす」


 ——いつも通りの言葉。

 相変わらず里見さんはよくネットショッピングをしているようで、今日もまた重たい荷物が届いている。


「康太くん、いつもありがとうねー」

「あっ、はい…っ!」


 笑顔で部屋から出てくる彼女の姿は相変わらず無防備で、つい目をそらしてしまう。

 それを自覚していない彼女は、頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。

 こんなの、変な男に襲われたら大変だぞ……!


「せ、生活の方はもう慣れましたか?」

「ええ。近所ならもう迷うこともなくなったわ。それに、必要なものはお陰様で揃ってるから」

「それならよかったです。今度はなにを買われたんですか?」

「えっとね、えーっと……そ、そう!今回も家電を買ったのよ!」

「へー、家電ですか。いいですね。それじゃあ、サインを——」


 あ、これ前にも一回あったやつだ……。

 サインを貰おうと署名欄を指差すと、その上の商品名には堂々とアダルトグッズと書かれていた。

 業者も、もう少しは隠せよ…ッ!!


「ははは、立派な家電ですねー……」

「え、えぇ、そうでしょ!?」


 正直、今更隠したり照れたりしても手遅れだとは思うけれども、そんなことはそっと心の中に秘めておいた。

 相変わらずだな、この人は。

 と言うか、こういうのってやっぱり全部使ってるんだよな……?

 俺が妄想をたぎらせている間にサインしたらしく、『康太くん、康太くんっ』と名前を呼んでくれる彼女の声が俺を現実に引き戻す。


「ほら、サインしたよ。ちゃんと覚えてね」

「結城…里見……さん」


 無意識のうちに声を出して読み上げてしまった。

 すごく綺麗な名前だ……。


「なぁに、秋野康太くんっ」


 初めてフルネームで呼ばれたということ以上に、目の前に立つ女性の無邪気な笑みに心を打たれた。

 

「……っ、それじゃあ、次の配達があるので俺はもう行きますね!」


 荷物を渡し、その場から逃げるかのように踵を返す。


「もう、意気地なし…」


 頼らない後ろ姿を見届ける彼女の言葉が届くことはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る