「どうかしら……？」

　不安そうな表情で、里美さんが俺の顔を覗き込む。

「——め、めちゃくちゃ美味いですっ！」

「そう、よかった」

　彼女は、家庭的な見た目通りに料理ができるらしい。

　味噌汁や焼き魚などと言った和食は、なんだかとても夫婦感があるように思える。そんなことを勝手に妄想するのは、もしかすると失礼かもしれないが……。

　俺は、そんな幸せを噛み締めながら次々と箸を進めた。

「やっぱり、食べてくれる人が居るのはいいわね」

「そうなんですか？」

　もぐもぐと頬張る俺を見つめて微笑む。

「康太くんみたいに美味しそうに食べてくれる人、好きよ」

「え、えぇっ！？」

　突然発せられた『好き』という言葉に過剰に反応してしまい、食べていたものを喉に詰まらせてしまった。

「ほら、慌てないで、ゆっくり食べてね」

　渡された麦茶を流し込み、ひと息つく。

「里美さんこそ、美人だし、料理もできるなんて絶対にいいお嫁さんになりますよ！」

「お、お嫁さんっ！？」

　その言葉を聞いた彼女は両手を頬に当てて俺から目を逸らし、何かをボソボソと呟き始めた。

「『お嫁さん』ってやっぱり、私誘われてるのかしら。いや、でもそんなことあるわけないだろうし、自惚れちゃダメよね。でも、でも——！」

「どうかしました？」

「……康太くんは、私をお嫁さんにしたい？」

「いやぁ、俺なんかには無理ですよ〜。つり合わないって言うか、手に負えないというか」

　この人には、俺よりももっといい男がいるはずだしな。

「ふーん、そうなのね。特別にデザートにプリンをあげようと思っていたけれど、康太くんにはあげないわ」

「えっ、どうしてですか！？」

「どうしてもよ」

「嘘だろーっ！？」

　怒り、なのだろうか。無理やりそんな感情を表現するかのように、里見さんは頬を膨らませて顔を逸らす。その上、腕まで組んでいる。

　本気で怒らせたわけではなさそうだが、気分を害していることは確かだった。

　くっ、乙女心とは難解なものだ……。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい