合法ロリだと思っていた先輩が飛び級の違法ロリだと知ってしまったから全力で甘やかす
綿紙チル
違法ロリ先輩との日常
合法ロリという言葉を知っているだろうか。
その容姿が凡そ成人に達していない成人済みの女性を指す言葉だ(諸説アリ)。
ロリ(幼女)っぽく見えるが、恋をしても法律上問題ない存在。
それが合法ロリなのだ。
その実例が目の前にいる。
子どもみたいな小っちゃい手でA4サイズの原稿用紙をペラペラと捲っている。身長が低いのも相まって、紙に包まれてしまいそうだ。真剣な顔をしているが、ぷにぷにで可愛らしいお肌の美しさにどうしても目が行ってしまう。
そんなこと本人に言ったら絶対に怒られる。
彼女の名前は八重樫一菜。
僕の通う学校の先輩で高校三年生、文芸部の先輩。そして現役の作家である。
今は文芸部で作品の添削をしてくれている。
「……瑠佳ちゃんはもっと登場人物の心情描写を凝るべきじゃないかな。作者の言いたいことが先行しすぎて、作品としてどうしても完成度が低く感じる。ハッキリ言って駄作だ。こんなものをわたしに見せるなんて恥だと思って欲しい」
だが、その言葉は非常にキツいものがある。
こんなにも見た目は愛らしいのに、と最初は困惑した……。
厳しい指摘を受けた文芸部員の火月瑠佳は元気なく笑った。
「ご、ごめんなさい……八重樫先輩。こ、こんなお見苦しいものを見せて――」
火月は机に置かれた自身の原稿を放置したまま、部室から出て行ってしまった。
残された僕と八重樫先輩。
合法ロリ先輩は、先輩の威厳など感じさせないような大粒の涙を浮かべていた。
「ど、どうしよう。あさのくん……また、やっちゃったよおお!」
「先輩。どうぞ、僕が胸をお貸ししますので……、あとティッシュです」
チーンと鼻をかんでから僕の胸に飛び込んで来た。
「ごめんなさい瑠佳ちゃん……」
「あいつには後でフォローしておきますから、大丈夫です。僕にお任せを」
「うう、いつもありがとう。あさのくん……」
そう! 先輩の威張り腐っている様は演技に過ぎないのだ。
本当は気弱ですぐに泣いてしまうような心の持ち主。
そして、実年齢十歳の本物ロリ。
飛び級で高校転入しているので、違法ロリと言っても過言ではない。
そんな八重樫先輩の秘密を知ったのは……入学間もない頃のこと。
◆ ◆ ◆
文芸部の部室へと僕、浅野祐樹は向かっていた。
僕はロリコンだと言う自負があった。
でも誤解して欲しくないのは、ロリに性的な興味はないことだ。ただ単純に小さい女の子が好きで、尽くしたい。それだけだった。
入学したばかりの高校で合法ロリ先輩という女子生徒が話題になっていた。彼女は文芸部にいるらしく、部室へと向かっていたのだ。
YESロリータ! NOタッチ!
という有名な標語がある。
その通りに実在ロリに実害を与えてはいけない。いや、そもそも接触してはいけないというロリコン鉄の掟だ。
しかし本物の合法ロリがいるとなれば、動かないわけもなし。
とりあえず、部室に行ってみようと思ったのだ。
トントントンと扉をノックする。
しかし返事は無かった。ドアノブに鍵はかかっていない。
入って待っていればまあ誰か来るでしょ。と思い部屋へと足を踏み出す。
すると、耳を掠める小さな寝息。
すーすーと子気味の良いリズムを立てている。
目の前にいるのは天使に他ならないほど可愛い幼女。
これが合法ロリ先輩こと――八重樫一菜。
ニヤニヤとした幸せそうな寝顔を近くで崇めたいが、起こすのも悪いと思って部室から出ようと思った。
くちゅん、と控えめなくしゃみが僕の足を止めた。
まだ春先。部屋に差し込んでいる陽射しは十分に部屋を温めてはくれない。
カバンに入っていたジャージを取り出して、八重樫先輩の肩にかけておく。
起こさないように、そっと。
ふと、机を見やると彼女のマイナンバーカードが置いてあるのが見えた。
余りにも不用心すぎる。
そう思って置いてあったコピー用紙で表面を隠そうと思った。
しかし、そこに書いてある生年月日の表記に驚愕した。
思わずカードを手に取ってしまう。
自分と生まれた元号が違う……!?
衝撃が体を貫いた。
思わず後ずさり、転んで大きな音を立ててしまった。
「……ん? 君、誰? ってそれ私のマイナンバーカード!」
「な、何も見てません! 見てませんから、どうかご容赦を!」
「お、終わった……、私の高校生活、終わっちゃったよおおお!」
大きい声で嘆く八重樫先輩。まさに阿鼻叫喚と言った様子だ。
逃げた方が良いと理性が告げる。しかし、可愛いロリを泣かせておくな、という本能が強く訴えかける。
咄嗟にカバンの中から秘密道具を取り出す。
これは最近、女子小学生に流行っているらしいキャラクター。
純粋無垢そうな表情をした二足歩行のモコモコした猫、ふわねこ。それを模った十センチ程度のぬいぐるみだ。
「や、八重樫先輩……これを差し出すので、どうか落ち着いてくれませんか?」
真のロリコンたる僕はいついかなる状況も想定して、幼女に受けそうなアイテムを常備している。だが、高校生として学校に通っている先輩にそんなものが効くのか。
「……あ、これ、ふわねこ! い、いいの……? もらっても」
目を丸くして八重樫先輩はふわねこを見つめている。
どうやら、興味はあるらしい。
「はい! 先輩にプレゼントします! どうぞ、だからまずは落ち着きましょう」
「ありがとう……、分かった。頑張って落ち着いてみる……」
八重樫先輩はすーはーと小さく深呼吸をして、体を伸ばした。
雰囲気が少しずつ変わり、僕が感じていたロリコンセンサーが反応しなくなってしまった。そして完全に幼げな様子は消えた。
「ごめん。取り乱した姿を見せた。それよりも私のマイナンバーカード、返してもらえないかしら」
「は、はい。返します」
「それで、私の秘密を知った君をどうしようか? 適当に罪をでっち上げて、退学にでも追い込もうかな」
まるで年上かのような雰囲気に押されそうになりそうだった。
貫禄のようなものを強く感じた。だけど、僕は……。
「いや、待ってください、先輩!」
「だけど、私は秘密をバラされたらこの学校で生きていけないから」
「退学の話はどうでもいいんです! ただ、今の先輩可愛くないです!」
「は、はあ?」
八重樫先輩は困惑しているようだった。
だけど、そんなことは関係ない。ロリコンとして全てのロリが健全に、自分らしく生きられるようにするのが僕の正義。
「もっと年相応の笑顔をしてください! そっちの方が絶対良いですよ!」
僕がふわねこを渡した時、先輩は確かに目を輝かせていた。
個人として、そういう顔がもっと見たい。見せて欲しい。
「え、えー……」
「あっ」
先輩の引きつっている表情を見て、やらかしたと確信した。
思っていることを言いすぎた。ロリコンの気持ち悪さが爆発してしまっている。
「ほ、本当に良いの? 子どもっぽく振舞っても……?」
しかし、僕の予想とは違った言葉が返って来た。
椅子から降りてきた八重樫先輩が上目遣いで僕のことを見つめているのだ。
そ、そんな風に言われたら、おかしくなってしまう。
「是非そうしてください! 僕は先輩の年相応な仕草をもっと見たいです!」
「あ、ありがとう……えっと」
「浅野祐樹です」
「あさのくん……。君の前では本当の自分を出せるように頑張るよ」
頑張る……? どうして、そんな風になるのか。
もしかして、八重樫先輩が高三女子のような雰囲気を纏っていたのは、誰かからそう望まれているから? もしかして僕も、そういう手合いに勘違いされた……?
違う、僕は……。
「頑張らなくて結構です! 僕が先輩を甘やかしまくって、自然な子どもらしい表情にさせてみせます! だから、今日から僕も文芸部に入部します!」
◆ ◆ ◆
それからというもの。
後輩や同級生の前では高三女子らしく振る舞う先輩を、年相応の幼女として笑わせられるように努力を続けている。
さきほどの添削で後輩の火月を傷つけてしまった先輩はご機嫌斜めだ。
ここで先輩に笑顔を取り戻すことができなければロリコンの名が廃る。
「八重樫先輩……一緒にパンケーキ作りませんか?」
「でも、私には原稿の直しが……まだ……」
「今は休みましょう。それよりも、先輩は学校の前にあるコンビニでアイスを買って来てください。僕のためにバニラのアイスを。勿論、先輩の好きなものも買って来てください」
「あさのくんがそう言うなら……仕方ない。せ、先輩だから……」
そう言って先輩は電子マネーがチャージされているスイカを持って部室から出て行った。ちょっとだけ心配だが過保護になり過ぎるのも良くない。
さて、自分は先輩が買い物に行っている間に準備をしなくては。
部費で買わせてもらったホットプレートを棚上から取り出す。
電源に接続して、適切な温度に温める。ホットケーキミックスと卵、牛乳をボールに入れて軽く混ぜておく。
思っていたより早く先輩が帰って来た。
荒れた息遣いから先輩が走ったことは明らかだった。
「あさのくんの言う通り買って来たよ」
「はい! ありがとうございます。先輩」
先輩から渡されたレジ袋を見るとアイスが二種類入っている。
一つは僕が頼んだバニラアイス、もう一つはミントアイスだ。
「先輩、ミント好きでしたっけ?」
「う、あんまり……でも、その方が大人っぽく見えるかなって……」
先輩はこうやって大人っぽく見えることに執着している。
正直、何のアイスを食べていたところで子どもっぽいとかは無いと思う。けど、そうやって努力する先輩もかわいい、と思う心もある。
一方で、嫌いなものを先輩に食べさせる趣味はない。
「じゃあ、僕がもらっても良いですか? 実はミント好きなんです」
「そ、そういうなら、あさのくんにあげる」
交渉成立。
実は先輩が好きなアイスはバニラなのだ。
元々こうなるだろうと想定していたから、僕はバニラを注文した。
「じゃあ、パンケーキ焼きましょう」
僕が生地を垂らそうとすると、先輩が物欲しそうな目で見つめていることに気づいた。多分、やってみたいのだと思う。
「大丈夫です。ちゃんと先輩の見せ場も取ってありますよ」
入れたのは半分程度。
残りは先輩がやる番だ。
「どうぞ、先輩。活躍に期待してます!」
「任せて!」
先輩は僕がやっていたように高いところから生地を落とそうとする。
しかし、先輩の身長では高さが足りなかった。
「八重樫先輩、椅子です。使ってください」
「あ、ありがとう……」
椅子の上に立って、生地を流し込む。
上手く丸い形に広がっていく。ムラのない均一な厚さだ。
それから僕たちは焼ける前で生地を眺めて待っていた。
特に先輩は気を配っていて、目を放そうとしなかった。
「先輩、そろそろです。裏返しましょう」
「やっと、長かった……」
「長かったですね……だから、裏返すのは先輩にお願いしてもいいですか?」
その言葉にワクワクを抑えらない先輩。とっても可愛い。
「え! い、いいの? でも、失敗したら……」
「大丈夫です。先輩ならできます! それに失敗したとて、僕は絶対に怒りません」
「……分かったよ。私、頑張るね」
それから、フライ返しを持って椅子の上に立つ先輩。その雰囲気は固い。まるで普段の先輩のようだった。
これでは駄目だ。業務のように思わせては先輩の真の笑顔は見られない。
「先輩、こっちを見てください」
「なに? 今集中――!」
僕がカバンから取り出したのは、ふわねこの焼きごて。
本当は最後にパンケーキに押そうと思っていたものだった。
「もっと体の力を抜いてください。そうすれば、この焼きごてを押します」
「わ、わかったよ」
そして、自然な体裁きで先輩はパンケーキを裏返していく。
焼きも十分で失敗している様子はない、つまりーー。
「上手くできましたね」
「うん! あとは待つだけ」
それから数分後。
焼き上がったパンケーキを更に盛り付け、焼きごてでふわねこを焼き入れる。
そして、買って来たもらったバニラアイスを上に乗っけて、その上からたっぷりメイプルシロップをかける。
「わあ、おいしそう! 食べていい?」
「是非お食べください!」
「いだたきまーす!!」
幸せそうにバニラアイスを溶かしながらメイプルシロップと一緒に口に運ぶさまのは僕の視神経を破壊する。こんなにも可憐で美しいものはこの世に存在しないと思いながら、滂沱の涙を流した。
これだ、これを見たくて僕は先輩を精一杯甘やかしているのだ。
もうこれ以上の幸福は存在しえないと思って、気絶しそうになる。
そんな時、隣からの癒しのボイス。
「すごくおいしい! ありがとうね、あさのくん」
死んでもいい、そう思って、辞世の句が頭に浮かんだ。
違法ロリ 合法ロリなど 敵でなし
(完)
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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