本当の自分
私の親友は、私が持っていないものを持っている。
美しい容姿に透き通るような声、恵まれた生まれ。そしてたくさんの友人達。私が人に自慢できるのは、彼女の親友であるという一点のみ。うれしいのに、悲しくてくやしい複雑は感情が、いつだって私の中で渦巻いていた。
ある日、彼女は私に「野球部の試合を一緒に見よう」と誘った。私はいつも通り、二つ返事で了承する。
野球部の試合は、夏の終わりが近づき、肌にほんのり冷気を感じる日の午後のことだった。野球のルールなんて知らない私は、トントン拍子で進行する試合を、ぼんやりと眺めていた。
「あっ見て、あの人!」
彼女が指差す方に目を向けると、そこには、一際大きな身長の目立つ青年が、バットを構え、ピッチャーに鋭い眼光を飛ばしている姿があった。長いようで短い沈黙の後、ピッチャーはボールを投げる。目で追えないボールに対し、彼はまるで吸い込まれるようにバットを振った。
それは見事にボールをとらえ、甲高い音を辺りに響かせる。
その瞬間、心臓がドクリと跳ね、私は「あっ」と声を出していた。湧き上がる歓声が聞こえないくらい、私の鼓動は激しく高鳴っていた。これは運命だ。何も持たない私に、神様がくれた最初で最後の贈り物。やっと、私の世界に光が差したんだ。本気でそう思った……でも。
「あれ、私の彼氏なの!」
私の運命を、彼女は簡単に奪って行った。 彼女はいつだって、私から全てを奪う。顔も生まれも才能も、友人だって、私にない全てを持っているくせに。どうしてあなたは、私から全て奪うの?
長年、私の心に渦巻く感情を抑え続けていた理性は、たったそれだけで簡単に崩れていった。
あなたが、私の全てを奪うなら、私もあなたの全てを奪う。
最後に残った感情は、ドス黒い私の心そのものだ。
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