過去が迫る
締め切られたカーテンの向こうから響くのは、小鳥のさえずり。世界が希望に満ちていると信じて疑わない彼らのその不快な声に刺激され、私は目を覚ました。
「ふぁ……ログボ……今日のログボもらわなきゃ」
重いまぶたをなんとかこじ開け、私は辺りを見回しスマホを探す。どこかからツンとした香りが漂い、積み上げられた雑誌や漫画、散乱した食品ゴミが視界に入る。一瞬眉をひそめたが、無視してまたスマホを探しはじめた。
「あった」
机近くに転がっていたスマホを見つけ、手を伸ばす。上機嫌で電源を入れようとすると、ふと、スマホに何か紙のようなものが張り付いているのに気づいた。
「写真?」
やぶれかぶれの状態だったが、一応見ることは出来そうで、ペラりとめくる。それは昔の……いや、数か月ほど前の光景。明るく笑う私と、幼馴染の大地君、それとクラスの人達。今の私と昔の私……小鳥のように純粋だった私はもういないんだと思い知らされたような気分がして、私は逃げるようにスマホの電源を入れた。
「もう何なのよ!」
映し出されたそれを見て、私はスマホを投げ捨てる。それは、何ということのない、写真データをストーリー化するスマホの機能。
部屋のすみっこで、私は膝を抱えてうずくまる。少しでも、身体の震えを抑えるために。誰もいないこの部屋で、少しでも、誰かに、涙を流す自分の姿を見せないために。
「六花!大地君とクラスの子達がお見舞いに来てくれたの……会ってみない?」
扉越しに響く母の言葉に、ズキズキと全身の傷が痛みだす。
もう、あの頃には戻りたくない。
定まらない視線を扉に向け、私は静かに覚悟を決めた。
おいで……………………大地。
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