鬼ごっこ

少年達が廊下を走る。そして、少女が一人後を追う。


 まるで鬼ごっこでもしているみたいな微笑ましい光景だが、なぜか……少年達は大粒の涙を瞳に溜めて、死にたくない、死にたくない……と何度も叫んでいた。


「つかまえた」


 ついに一人が捕まった。


「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!」


 助けを求め、少年は仲間達に手を伸ばす。だけど、既に彼らはそこにいない。


「ねえ、僕……お腹減った」


 少女がそう言うと、少年はジタバタと暴れはじめた。しかし、どれだけ暴れても、少年は、少女のその細腕の拘束から逃れる事はできない。突然、少女の口が三日月のように裂け、中から刃のような無数の歯が覗く。


「助けて助けて助けて助けて助けッ———」


 少年の言葉が止まった時、少年の身体に……頭なんて付いていなかった。


 しばらくの間、廊下にはくちゃくちゃという咀嚼音が響き、その後、少女は消えた。


「ねえ、リク……行ったみたいだよ?」


「しっまだ近くにいるかもしれないだろ」


 少年だった物が転がる廊下近くの教室から、そんな声が聞こえてきた。


「クソッ……何なんだよあの化け物は」


「分かんないよ……私達、ゲームしてる最中に急に襲われたんだもん」


 その時、遠くから誰かの叫び声が聞こえて来た。


 少年と同じで、最後まで誰かに助けを求める悲痛な叫びは、彼らの身体を震えさせた。


「……私達、生きて帰れるのかな」


「……分かんねぇよ」


(せめて、ソラだけでも逃がせれば……ん?ソラ?)


 不安そうにする彼女の横で、リクは静かに思案する。


 彼は気づいていなかった……背後に忍びよる狂気を。


 ———ねえ……お腹減った。


 リクが目を覚ますと、そこは見慣れた教室で、皆んな、机に突っ伏して気を失っていた。窓の外ではとっくに夕陽は沈み、丸い月が顔を出している。


 辺りを見渡しても、そこには、少女の姿も……ソラの姿もどこにもありはしなかった。

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