ラベンダー
「愛してるよ。凛」
画面の向こうから流れる彼の声音は、今もあの日と変わらず澄んでいる。
今から一月前、小雪の降る肌寒い日の早朝……彼は出張で、飛行機に乗り、遠くの国へと旅立った。半月程で帰るって言ってたのに、未だ連絡は来ない。
「……心配だな」
彼のいない家の中は、不思議と広く感じて落ち着かない。
ここしばらく、何がなんだかわからない、心臓を握られているような痛みと恐怖が私にまとわりついて離れない。
「早く帰ってきてよ……」
ブブブ……ブブブ……。
突然、机に置いていたスマホが震えだした。
彼からだ!そう思うと、途端に私にまとわりついていたものが霧散した。
私は慌ててスマホを手に取り、電話をつなげる。
「はぁ……」
安心も束の間、画面を見て、私は肩を落とした。
電話の主は彼ではない……そこに書かれていたのは、二つ下の妹ー桜の名前。
「……なに?」
「あ、お姉ちゃん……体調は大丈夫?ちょっと話したい事があるから、近くの喫茶店で待ち合わせしない?」
「ごめん、私用事があるから」
「そっか……みんな心配してるよ。偶には家に帰ってきてね……」
「うん……彼と一緒に、また行くよ」
「え、お姉ちゃん、何言ってるの?お姉ちゃんの彼氏さんは、もう」
彼女が言いきる前に、私は「うるさい!」と言って通話を切った。
「大丈夫……大丈夫……きっと、帰ってくる」
うわ言のようにそう繰り返しながら、私は彼の声を再生する。
大丈夫……まだ、ここにいる。大丈夫、絶対、帰ってくるから.……。大丈夫……私はいつまでだって待てるから。
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