第3話 キミの家の事情
「ちょっとゴメンな?ったく、誰だろうな…。芙由香さんもまだ帰ってきてないだろうし…。」
ボクの今後を左右する大事なタイミングで、突然の来客だった。
「まぁ、いっか?用がありゃ、また来るだろ。で…君が俺に養って欲しいって、話だけどさ…?実は、俺も君くらいの歳の頃、両親を事故で亡くしててさ?」
「そ、そうなんですか…。ボクと似てますね…。」
恐らく、キミがボクをこの家まで連れてきてくれたのは、そういう背景があったからだと今でも思っている。
「ああ…。それで、両親の葬儀等は、役所の人とか近所の人が手伝ってくれたんだけど、俺の両親…二人とも身寄りがなかったみたいでさ?俺の今後について、役所の人たちが児童養護施設へ保護するって話をしてた時、母方の親戚っていう芙由香さんが突然現れてさ?俺を養子として引き取ってくれたんだ。」
「芙由香さんって…養母さんのお名前だったんですね。てっきり、お祖母様かと思ってましたよ。」
この家に入った時から、キミが名前を呼んでいた人物が誰なのかが分かって、何故かこの時のボクは少しホッとしたのを覚えている。最初は、キミの事なんてどうでも良かった。でも、ボクの身体をキミは見たからには、責任を取って貰わなければと思ってから、『芙由香さん』という名前が誰なのか気になり始めていた。もしも、その相手がキミの恋人だったら嫌だったからだ。
結果、『お祖母様かと思って』とキミに言って誤魔化した訳なのだが。
「あー。絶対に、それだけは言うなよ?きっと…ぶっ殺されるぜ?まぁ、芙由香さん滅茶苦茶美人さんだから、そんな言葉思い浮かびもしないけどな!!だからさ…?芙由香さん帰ってきたら、君の事情話してやるから…それでも良いか?」
「はい…。でも、そんなに綺麗な女性なんですか?」
きっと芙由香という人は怒らせると怖い人で、キミが大袈裟に言っていると思って、ボクは全く期待してもいなかった。
「会えば分かるさ!!うーん…。それにしても…。うーん…俺の気のせいだよな?」
「な、なんですか…?ボクの顔、何かついてます?」
先程、慌てたキミからボディスポンジを受け取ったボクは、見よう見まねで身体を洗い終えると、先に湯船に入るように言われ、キミに優しく抱えられるようにして湯船に入れられると、胸を隠しながら肩まで浸かっていた。
洗い場ではキミが頭を洗いながら、何か言いたげな表情でボクの顔を、何度もマジマジと見つめてきたので、少し恥ずかしくなってしまった。
「いや…。ちょっとな…。この世の中には、自分に似た人が三人は居るって話だしな…?そういや…君はハーフか?色白いし…髪の色明らかに違うしさ?」
きっと、ボクがキミの知り合いの誰かにでも似てるんだなとこの時は思った。
ハーフと言われたが、ボクのいた世界のハーフは異種族同士の混血の事を意味していたし、そもそも魔族は強い種族同士の混血が殆どだ。
それに、この家まで歩いてくる間にすれ違ったのは、黒や焦茶の髪で、淡く黄色かかった肌で、目の色も髪の色に近い色の種族だけだ。
それに対して、ボクの髪は白銀色で、肌は…淡いピンクがかった白い肌、目の色は灰色だ。まぁ…魔族の能力を使う時だけ、目の色は染まったように変化はするが。
「はい、ハーフですね…。」
後で、この世界におけるハーフの意味合いを知ったのだが、この時キミが質問していたハーフの意味とボクが答えたハーフの意味とでは、実は違っていたようだが、結果オーライだった。
「そうだよな…。どう考えても、日本人には見えないしな?でも、外国人にしては日本語上手だし、ハーフじゃないかなって思ってたんだよ!!何か、スッキリした。」
「そうですか…。良かったですね…。」
ここでようやくボクは、キミが日本人という種族であること。今喋っているのが日本語ということを理解出来た。
「でさ…?何で、君は髪の毛短くしてるんだ?うーん…。絶対、髪伸ばしたら可愛いと思うんだけど…。」
中位以上の魔族の女は、繁殖的な意味で狙われるのだ。下位の魔族や悪魔、更には魔物であろうと、未婚の魔族の女を孕ませられれば、日本で言えば所謂…逆玉の輿で、中位以上の魔族への仲間入り、下剋上を果たせるのだ。故に、拉致や誘拐が後を絶たない為、充分な防衛能力が備わるまでは、男児として育てられる事が多い。
ボクの家も例外ではなく、身なりや言葉遣いも男児として育てられていた為、いつも髪型は短髪にされていた。ボクと言うのもそうだ。
ただ、身体が成熟後は淑女としての教育を受け、より身分の高い魔族と政略結婚させられる運命にあるのだが、その前にボクは孤児となった為、自分の能力を磨き“災厄”と呼ばれるまでになった…女の魔族としては異端の存在だ。まぁ…ボクが女だと気付いたのは、あの女神を除いて他には居なかったが。
「未来の旦那様がそう仰るなら…。ボク…髪、伸ばしますね?」
キミに責任を取って貰うのだから、ボクのことを心から気に入って貰いたいと思ったのだ。
「本当に…俺で良いのか!?俺に身体、見られただけだぞ…?君、可愛いんだからさ?俺より…もっといい男、大きくなったら掃いて捨てる程出逢えるだろ?!」
「もう、ボクは決めたんです!!」
「俺と…君とじゃ、歳がさ…?七歳くらい違うんだ。だから、君が…俺くらいの歳になった時、俺より若くていい男現れるかもしれないだろ?」
見た目に騙されているだけで、実際のボクは魔族なので三十歳を超えている。実は、キミより年上のお姉さんなのだが、この世界では年下として振る舞うのも良いかなと思ってしまった。
「大丈夫です!!」
「君が大人になったらさ…?コレ、相手にしなきゃいけないんだぞ?それでも、良いのか?」
キミが何度か視線を落として、ボクに目配せしてきたのだが、キミの立派なモノの事らしい。ま、まあ…大人になったら考えればいいと思って、その事については考えるのはやめた。
「未来の旦那様ですから、大丈夫です。」
「まぁ、いつでも辞退してくれて構わないからな?」
今思えば、二人とも相当変なやり取りをしていた。そもそもキミが責任取る話なのに、ボクが辞退するとかいう流れにはならないだろうし、未来の旦那様だから平気という話でもない。
「そろそろ、のぼせちゃうからさ?風呂から出ようか?それで、身体拭いててくれ。俺は、風呂入った後、少し掃除するからさ?」
──ジャバッ…
「わぁっ…?!」
──ジャァー…
急にボクをキミは湯船から抱え上げると、洗い場で身体をシャワーで流し始めた。
「よし。じゃあ、向こうでタオルで身体を拭いててくれよ。」
「タオル?」
──ガタンガタンガタンガタンッ…
お風呂場の引き戸が半分くらい開けられて、ボクはキミに促されるように脱衣所へと上がった。
「タオル、そこにあるだろ?」
「これ…?」
脱衣所の吊り戸棚に、二人分のタオルと着替えが入っていたが、手前側のタオルは新しかったのでそれだと思ったのだ。因みに、この時のボクはタオルが何なのか、分からなかったが、拭くという言葉でこれかなと思っただけだ。ボクのいた世界でも、沐浴する習慣はあったが、タオルのようなフカフカとした素材などなく、麻や綿に似た素材で濡れた身体を拭っていた。
「そうそう。それで身体を拭いててくれ。髪もそれで一緒に拭けるだろ?」
「はい。」
──ガタンガタンガタンガタンッ…
──ジャァー…
脱衣所にボクは一人きりになり、タオルで身体を拭き始めた。
「えっ?!」
タオルの柔らかな感触と共に、身体が触れた部分から水が消えていたのに、ボクは本当にビックリしてしまって、思わず声が出てしまった。
──ガラッ…
そんな時だった、脱衣所に入るための引き戸が突然、開いたのだ。
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