第2話 ボクの一つ目の秘密
六年前、三月二十四日(土曜日)────
──ガラガラガラガラッ…
「
キミに連れてこられた家は、古き良き時代の日本家屋で二階建ての一軒家だった。それまでの道中にも見たことのない建物ばかりで、ボクは茫然自失状態だったが、特に木造建築のキミの家には度肝を抜いた。
ボクの居た世界では、石造り、土造り、木を使っていても精々丸太造りが殆どで、ここまで精巧な木造建築の家を見たことが無かった。
「あー…とりあえず、その…靴脱いでさ?玄関あがろうか?」
先にキミが玄関の土間から、上り框にあがりかけていたのを見たボクは、慌てて泥まみれの靴のまま、上り框に足を乗せようとしたところで、声を掛けられた。
「ご、ごめんなさい…。」
「本当に、どこから来たんだろうな…。よく見たら、滅茶苦茶泥まみれじゃないか。芙由香さんは、買い物にでも出掛けてるみたいだし…先に、風呂入っちゃおうぜ?」
「はい…。」
風呂という言葉を知らなかったこの当時のボクは、風呂は入るものなのだとこの時理解したのだが、どんな場所なのか想像出来ず、キミの後を大人しく着いていくことしか出来なかった。
──トントントントントントンッ…
玄関をあがると正面の少し左奥に木製の階段が見える。家の床は木の板張りになっていて、その上を歩くと音が響いて面白かったが、右側には不思議な外観の片開きの引き戸が見える。その引き戸の横を通り抜けると、正面に両開きの引き戸が目に飛び込んできた。
──ガラガラッ…
てっきりその戸を開けるかと思っていたら、キミはそれには目もくれず、その右側にある片開きの引き戸を、ゆっくりと開けたのだ。
「あぁ…そうか。着替え、どうしようか?タオルはあるんだけどなぁ…。俺のでいいよな?」
キミは戸の中へと進んでいったが、そこは狭い部屋で、いわゆる洗面台が置かれており、その反対側には洗濯機が置かれ、上部には吊り戸棚があった。はっきり言えばお風呂場の前によくある脱衣所だろうか。当時のボクにとっては、見慣れないものばかりでキョロキョロと周りを見渡すばかりだった。
──ガタンッ…
「よし、栓されてるな。」
──ピッ!!
──『お湯張りをします。』
「えっ…?!」
キミはお風呂場を覗くと、脱衣所にある給湯器のリモコンの自動お湯張りボタンを押した。急に声が聞こえてボクはビクッとしてしまった。
「じゃあ、俺は着替え持ってくるからさ?ボク、服脱いで待っててくれるか?」
「え…。」
急にキミから服を脱いで待っててくれと言われたボクは、身構えてしまった。キミにとってはごく普通のことだったのかも知れないが、風呂の意味を知らなかった当時のボクにとっては、これから何をされるのかと服を脱げずに震えていた。
──ガラガラッ…
「あれ?まだ脱いでなかったのか?ほら、俺が昔着てた服あったから、これ着ればいいぞ?じゃあ、入るか!!」
泥まみれの服をまだ脱いでいないボクにキミは驚きながら、脱衣所へと入ってきた。しかも、ボクの分の着替えも用意してくれていた。
「いやー。マジでテンション上がるな!!弟みたいなボクとさ?風呂入れるなんてな!!」
──パサッ…バサッ…
そう言いながら、ボクの目の前でキミはまず長袖のティーシャツを脱いで、履いていたジーンズも脱いで下着姿になってしまい、ボクは身を強張らせた。
「ん…?どうした?ほら!!見てみろよ!!凄えだろ?」
ボクの方を不思議そうな表情をキミはしながら見た後、下着のボクサーパンツを勢いよく脱ぐと、それはそれは立派なモノをボクに見せつけてきた。もしかして、男兄弟というものは、こういう見せ合いをしたりするのだろうか?
「す…凄いね!!ボクは全然だよ。」
この時のボクは、そんなキミの光景に凝視してしまい、一瞬硬直してしまったが、怪しまれないように繕うのに必死だった。
──ピロリン!ピロリン!ピロリロリロン!
──『お風呂が沸きました。』
「わっ?!」
ボクとキミ以外、脱衣所には誰もいないのに、急に音が鳴り始めたと思ったら、次は女性の声が聞こえ、思わずボクは声が出てしまった。
「じゃ、俺は先に風呂場入ってるから。脱いだら入って来いよ?」
──ガタンッ…ガタンッ…
この家の脱衣所とお風呂場を仕切る引き戸は、周りを囲うパッキンの性能が良いだろうか、密閉率が高くて滑り辛いようで、あまり力を入れずに戸を引くと、重そうな音を立てて人一人分だけしか開かない。キミはその隙間へ滑り込むように消えてしまったのだが、この時のボクは、あんな立派なモノを見せつけられた直後だった為、この中でボクは乱暴されるのではと疑心暗鬼になり、なかなか一歩を踏み出せずにいた。
──ジャァー…
すると水の流れるような音が聞こえ始めた。はっきり言ってしまえば、シャワーを浴びるような音だ。
──ガタンガタンガタンガタンッ…
「おーい?入って来いよー?もう俺、身体洗い終わるぞ?」
引き戸が半分くらい開くと、そこには身体中泡だらけのキミが、ボクに向かって手招きしていたのだ。ここでやっと、この頃のボクは風呂と言うのは、湯浴みする場所という事が理解できた。
「はい!!」
──ガタンッ…ガタンッ…
お風呂場に入ると、床や壁はタイル張りで、浴槽のステンレス製の浴槽だった。後で知ったのは、日本の昭和と言う時代によく使われたお風呂場の様式のようだ。
──ジャァー…
「なんだなんだ?さっきから隠したりして。恥ずかしいのか?」
「うん…。」
もうキミは自分の身体は洗い終えていて、オリーブ色の石鹸をボディスポンジで泡立て始めていた。
「まずは、泥だらけだからお湯で流してからだな?」
──ジャァー…
「ひゃっ…?!あれ…。」
勢いよく出ている水を、いきなり身体に掛けられたと思ったら、温かくてビックリしたことは今でも鮮明に覚えている。ボクの世界では、水で湯浴みする事が殆どで、間欠泉が湧く場所でしか、温かい水に触れる機会は無かった。
──ジャァー…
「よし。泥は落ちたか?じゃあ、洗ってやるからな?」
「えっ!?だ、大丈夫です…。自分で…。」
──ゴシゴシ…ゴシゴシ…
泡だったボディスポンジでボクの上半身部分から、キミは洗い始めてしまった。
──ゴシゴシ…ゴシゴシ…
「ほら、観念するんだな?手、どけてみなよ?」
「ダメ!!ダメだよ!!」
──グイイイイッ…
強引にキミは、ボクが両手で下半身部分を押さえて隠していたのを退けてしまった。
「ほらっ!!え…っ?!ない…。って事は…!?」
「うん…。責任、取って…下さい…。」
「上半身洗った時だって…絶壁だったし、ずっと…男の子かと思ってた。俺に弟が出来たみたいで、本当に嬉しかったんだけどさ…。女の子だったとはな…。」
ボクの第一の秘密は、女の子だったって事だ。この世界に来る前は、女である事を隠すために、魔法で偽装してあたかも男であるように振る舞って生きてきた。いくら中位の魔族でも孤児なら、慰み者にされてもおかしくないので、言葉遣いもボクと言うようにして、身体が小さい頃は悪ガキのように演じていた。だから“災厄”が女の魔族だったなんて、誰も思ってもみないだろうな。
でも、あの女神には看破されてたようだ、流石に神とつくだけの事はある。
「絶壁とか…酷いです…。傷つきました…。絶対、責任取って下さい!!」
「本当にごめん…。はぁ…。じゃあ…大きくなったら、俺のお嫁さんになって貰えるかな?それで…許して貰えないかな?」
大きくなったらと言われたが、この退行させられた私は、見た目は地球人で言えば十歳前後だが…年齢は三十歳程なのだ。
「それだけ…?将来の貴方のお嫁さんですよ…?今から、養って貰えませんか…?」
──ピリリリリッ…
そんな時だった、突然玄関の呼び鈴が鳴らされたのだ。
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