第14話

 不破総一郎のサイバネ義体が完全に崩れ落ちると、カガネはわずかな達成感に浸りながらも、その場で膝をついた。

 しかし、すぐにフロストバイトからの緊迫した通信が入る。


「カガネ、聞いて。奴の意識はまだ死んでないわ。電子データとしてメタリンクス社の予備電脳にバックアップされている。物理的な体を失っても、奴はまた復活できる仕組みになってる」


カガネの目が驚愕に見開かれる。「まだ、終わっていない…?」


「安心して。今、彼の意識データにアクセスしてる。これを完全に消去できれば、不破総一郎の存在をデジタルの世界からも抹消できる」


 その瞬間、不破の声が端末のスピーカーから響き渡った。


「やめろ……! 私を消す気か? そんなことをしたら、君たちもただでは済まない。カガネ、お前も分かるだろう? 復讐はこれで十分じゃないか?」


 電子的な声には、かつて見せた冷徹さとは異なる切迫感が滲み出ていた。不破はフロストバイトに向かって哀願するように言葉を続ける。


「私が消えれば、メタリンクスの資産や権限も一瞬で混乱に陥る。大勢の社員が路頭に迷うやもしれない。……頼む、私を消さないでくれ」


 フロストバイトはしばし黙り込むが、その手は止まることなくキーボードを叩き続けた。


「あなたはカガネの家族を消し去った。その報いを受ける時が来たわ」


「待ってくれ、何でもする! いくらでも払う……だから……」


「もう遅いわ、CEO」フロストバイトの冷たく澄んだ声が、最後の操作を告げた。


 彼女の手が最終コマンドを入力すると、不破のデータは徐々に消えていき、彼の意識の片鱗が一つ、また一つと消去されていった。


 最後に、不破の声がわずかに震えながらスピーカーごしに聞こえた。


「こんな……馬鹿な……私は……肉体から開放された不死のメタヒューマンのはず……」


通信が完全に途絶え、全てが静寂に包まれた。カガネは静かにフロストバイトの元へ歩み寄り、彼女を見つめた。


「ありがとう、フロスト。これで本当に終わったんだな」


 フロストバイトは無言で頷き、画面上の消えたデータに目を落としながら微かに微笑んだ。


「ええ、終わったのよ。これで全部」

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