第13話

 カガネはフロストバイトの手厚いハッキング支援を背に、ついにメタリンクス社の最上階にあるオフィスに辿り着いた。

 扉が開くと、そこにはメタリンクス社のCEOである不破総一郎が立っていた。まるでこの瞬間を待っていたかのように、彼はゆっくりと振り返り、カガネを冷たく見据える。


「ついにここまで来たか、カガネ君。君の母親譲りの執念、恐れ入る」


 カガネは刀を構え、緊張を隠さずに一歩を踏み出した。


「俺の母を殺した理由を言え」


 不破は冷笑を浮かべながら、片手をゆっくりと上げた。


「君の母親が研究していたデータ、そして彼女の存在自体が、メタリンクス社の未来にとって危険だった。それ以上の理由など必要ない」


 カガネの剣先がわずかに揺れる。彼の中で怒りが膨れ上がり、フロストバイトが通信を通して静かに声をかけた。


「冷静に、カガネ。感情に飲み込まれたら奴の思うツボよ」


 その瞬間、不破は意図的に付け足した。


「君がどれほど足掻こうと、すべては無意味だよ。君の母親も、コーポの邪魔と見なされ、当然の処置を受けただけだ」


「黙れ!」


 カガネの怒りがついに爆発し、単分子ブレードが閃めいた。


 しかし不破も、ただの人間ではなかった。

 彼はその肉体をほぼ完全に機械に置き換えたサイボーグであり、驚くべき速度でカガネの攻撃を避けてみせた。


「君のような若造がこの私を倒せるとでも?」不破は嘲るように言った。


だが、その時、フロストバイトの支援が再び光を放つ。彼女がオフィス内のシステムに侵入し、カガネに有利な状況を整え始める。不破のセキュリティシステムが徐々に機能を失っていく。


「カガネ、いけるわ! 奴の防御システムも機能低下してる」


 カガネは深く息を吸い、冷静さを取り戻した。次の一撃こそが、母の復讐を果たすものになると信じて。


 カガネが仇へと突き進むと、不破総一郎はその静かな笑みのまま、ゆっくりと両腕を広げた。彼の体が、機械の軋み音を立てながらかりそめの肉体を飾る人工皮膚を破り、金属部品をあらわにし始め、重厚な鎧をまとったサイボーグへと完全に姿を変える。


「どうだ、これが企業の力だ。君の改造とは格が違うだろう?」


 不破の声がスピーカー越しに響く。彼の義体は、メタリンクス社が巨額の費用と最先端技術を注ぎ込んだものであり、関節の一つ一つまで強化されていた。


 不破が重い鉄拳を放ち、カガネの義体を揺さぶる。重々しい攻撃の一撃一撃が、カガネの装甲をひび割らせ、内部の制御系にまで影響を及ぼす。


「無駄だよ、カガネ君。きみでは私に敵うわけがない」


 フロストバイトの冷静な声が通信越しに響いた。


「カガネ、踏ん張って! 彼の鎧に弱点があるはず。システムを解析して、もう少しで戦闘データを……」


 その瞬間、不破がカガネの背後を取るように巨体に見合わぬ素早さで移動すると、強力な打撃を背中に浴びせる。カガネは膝をつきかけた。しかし、フロストバイトが素早く次の指示を出す。

 カガネはその指示に従い、不破の右膝関節へと一撃を放つ。しかし、その刃は不破の金属装甲に当たって火花を散らしただけで、まるで刃が通らない。関節部を守る装甲があるのだ。


「カガネ! そのまま続けて!」


 フロストバイトのハッキングにより首を守る装甲が開いた。カガネは不破の首元に渾身の一突きを放つ。義体の電源系が崩壊し、メタリンクス社CEO不破総一郎はその場に崩れ落ちた。


 不破の機械の瞳が、最後の光を失う前にかすかに動き、カガネを見つめた。


「お前ごときが……私を……」


カガネは刀を鞘に収め、静かに言葉を告げた。


「これが母の……そして俺自身の復讐だ」

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