第8話

 フロストバイトは、目の前の端末を巧みに操り、膨大なデータの海へと意識をダイブさせていた。羽佐間ハザマ市のデジタルネットワーク上で悪名高いカルティベイト社のセキュリティシステムを次々と突破し、彼女の仮想の指先が、データベースの奥深くへと滑り込む。


「どこにあるのよ……」小さくつぶやき、システムの隙間をついていく。


 重厚なファイアウォールを越え、指示ログが格納されている場所へと辿り着くと、彼女は一気にアクセス権限を乗っ取り、過去の記録を検索する。


「カガネの母親が殺された日のログ……」


 データがスクリーンに流れる中、一つの不自然なエントリーが目に留まった。


 大企業メタリンクス社からの命令が送信され、カルティベイト社がその内容に従ったという証拠だ。画面には【指示実行の対象、銅ヒヨリ…処理済み】の文字が表示され、フロストバイトは不安と怒りに息をのむ。

 隣にいるカガネの顔は金属の頭部が表情一つ変えずにいたが、フロストバイトの脳裏には彼の悲痛な顔が浮かんだ。


「カガネ、あなたの母親は……」


 その瞬間、背後にセキュリティシステムの反応が走り、彼女の侵入に気付いた防御プログラムが逆探知を始めているのを感じた。しかし、フロストバイトは動じず、必要なデータをすべて端末にコピーし、即座にシステムから抜け出した。彼女がしっかりと手に入れたデータには、メタリンクス社CEO不破総一郎の名が残されていた。


「やっぱり、メガコーポが絡んでいるのね……」彼女の小さな声には、どこか哀しみと怒りが入り混じっている。それでも、カガネの復讐の相手が、明らかになった。

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