第5話

 冷たい手術台の上で、カガネは生身の体が捨てられていく感覚に身を委ねていた。生まれついた骨と筋肉、鼓動さえも、鋼の部品とチップへと置き換えられていく。頭部の感覚が消えかけたとき、脳内に響く電子音とともに、自分の意識がゆっくりとデジタルの海へと吸い込まれるのを感じた。


「怖がるな……母さんの復讐のためだ……」


 カガネは自分に言い聞かせながら、消えゆく肉体の重みを手放していく。


 手術室の薄暗い光に、次々と取り付けられていく義体のパーツが鋭く輝いていた。腕は冷たい金属に置換され、その指先にはセンサーが埋め込まれている。

 視覚インプラントが頭蓋に固定され、周囲の光景が無機質なデータとして彼の脳に直接流れ込んだ。


 痛みはもうない。ただ、これまであった温かみや、心臓の鼓動が二度と戻らないことを理解すると、彼は一瞬の喪失感を覚えた。


「手術は終了しました」


 低く響く合成音声が告げる。幼いカガネだったものは冷えきった大人サイズの義体を動かし、全く別の自分に生まれ変わったことを確信した。

 鏡に映った自分の目は、もう生身の瞳ではなかった。そこには冷たい鋼の視線が戻ってきていた。


 電脳にアップロードされた少年の魂は、いまや機械仕掛けの侍に宿ったのだ。

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