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 シミュレータを使ったことがあるかって?


 ──愚問。こちとら本物のアーコスにだって乗ったことがあるんだから。


 セカンダリ・スクールの途中まで、私はストライダー志望だった。偉大なる姉、サクラ・カザミの背中を追って、かなり真剣に一人の戦士になるつもりだった。


 当然周りからは止められた。特に、両親を早くに亡くした私たち姉妹を親代わりに育ててくれたリサ叔母さんからはことさら強く。私に姉と同じ道を辿って、同じ最期を迎えて欲しくなかったのだろう。


 その気持ちは痛いほど理解していたつもりだけれど、それを受け止めた上で、私は歩みを止めるつもりなんてこれっぽっちもなかった。


 ストライダーは狭き門だ。UDFの作戦部隊は四つあり、そのうちアーコスに搭乗して戦地へ向かうのはただ一つ、アーコス部隊ARCOS Corpsのみ。そもそもアーコスという兵器は一体製造するのに軍艦並みの金が飛び、維持するだけでちょっとしたハコモノ級の財政計画を必要とするとんだ金食い虫マネー・ピットだ。いくら旧国連がバラバラだった世界各国をまとめて作り上げたUDFと言えど、一家に一台ご提供というわけにはいかない。そんなわけだから、アーコスに搭乗する資格を持つには四つの適正試験を高いスコアでクリアするか、UDFアカデミーに入学してストライダー養成コースを修了するしかない。多くの人は後者を選ぶ。前者は半ば特例で、在野の才能を拾い上げるために制定された安全網みたいなものだ。


 十二歳以上の健康な男女。それが適正試験の受験資格だった。


 十二歳の誕生日を迎えた瞬間に速攻申し込んだ。


 初年は一次で行われる身体能力テストで脱落。


 翌年、十三歳。一年間の自主練の成果が出た。二次の戦術試験まで一気にクリア。しかし三次の精神耐久試験が鬼門だった。アーコス戦での轟音と振動を再現する装置に乗せられて、ピークレベルのストレスを三十分間も受験者に与え続ける試験だ。二十五分までは意識を確かに保っていたが、そこから先の記憶がない。気づけば医務室のベッドの上に転がっていた。


 さらに翌年、十四歳。三年目にして三次試験をクリア。最終の四次試験へ進出。


 十五歳未満でここまで到達する受験者はほとんどいないらしい。流石はあの【スレッド】の妹だと、何人もの試験官に褒められた。誇らしかった。


 ストライダーの適正試験には『三振ルール』がある。五年間で三回までしか受験資格を得られないという規定だ。つまり今回を逃すと、その先丸二年はほぞを噛むだけの日々を強いられることになる。


 とはいえプレッシャーはほとんどなかった。身体能力はもはやハードルにならない。戦術試験の結果は試験官に驚かれる出来だったし、過剰なほどの轟音振動にも気絶せずに耐え切った。三回の試験で、私は十分に自信をつけていた。


 四次は実地試験だ。試験用に用意された型落ちのアーコスに搭乗し、規定秒数以内にダミーターゲットを全て撃破してガレージに戻るだけのごく簡単な試験。何を隠そう、三次までに実質的な淘汰は完了しているのだ。最終試験はあくまでストライダーになる上での通過儀礼的なものであり、近い将来に同僚となる予定の連中へ向けたデモンストレーションみたいなものだった。


 まぁ余程のことがない限り受かるだろう──と気楽に構えていた。




 




 私はその試験で、失敗した。

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