12
智子は今日も朝を迎えた。だが、今日はいつもと違う朝だ。今日は智子の27回目の誕生日だ。また1つ年を取ってしまった。10年以上も引きこもって、誕生日以外は年齢の感覚がなくなってしまった。どうしてこんな人生を歩んでしまったんだろう。今でも後悔ばかりだ。だが、頑張らなければ。そして、家族のために早く就職を決めなければ。
智子は窓を開けた。今日もいつものように朝日が昇る。引きこもっていた頃は全く見なかったのに、あれから見るようになった。少しずつ現実を見つめ始めた証拠だろう。
智子は1階のリビングに向かった。引きこもっていたころは、リビングすら行かなかったのに、今では普通に行くようになった。
智子がダイニングに入ると、そこには家族がいる。
「おはよう」
「おはよう」
智子の声に、みんなが反応する。これが求めていた家族の姿だろうか?
「今日は27歳の誕生日だね」
「うん」
母に言われると、智子は下を向いてしまう。また1つ年を取ったと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。もっと頑張って就職活動をしないと。いつまでも親のすねをかじって生活していたらダメだ。自分で働き、成長していかないと。
「こんなに年を取っちゃって」
「ごめんね、お父さん、お母さん」
智子は謝った。そんな智子を、両親は優しい目で見ている。就職活動を頑張っている智子を誇りに思っている。こんな智子だけど、きっと就職できるだろう。だって、智子は絵が得意なんだから。
「やっとわかってくれたようで。なかなか仕事見つからないけど、きっと見つかるから、頑張ってね」
父は智子の肩を叩いた。智子はとてもやる気が出た。両親のためにも頑張らないと。
「私、学歴や職歴だけで判断する人、大嫌い」
智子は思っていた。経歴だけで判断して、不採用にする面接官が気に食わない。本当に大切なのは、仕事をしたいという気持ちなんだ。経歴なんて全く関係ないと思っていた。
「その気持ち、わかる」
母のその気持ちがわかった。就職活動は厳しいけど、智子にはいい仕事が見つかるはずだ。絶対にあきらめないで頑張ってほしいな。
「本当? ありがとう。私、一生懸命頑張るから!」
「頑張ってね」
突然、インターホンが鳴った。誰からだろう。智子も驚いた。今日は土曜日で、みんな休みだ。こんな日に、誰だろう。
「あら、誰かしら?」
母はドアを開けた。そこには真澄がいる。だが、母は真澄の事を知らない。真澄は、智子の家を訪問したことがなく、智子以外の家族は真澄の存在を知らない。
「あれっ、あなたは?」
「真澄です。智子さんと最近知り合った人で」
智子はその声に反応した。まさか、真澄が来たとは。今日が誕生日だと知って、ここに来たんだろうか?
「はい。智子ー、真澄さんって人がやって来た!」
「本当?」
智子は玄関にやって来た。そこには真澄がいる。まさか来るとは。智子は戸惑っている。誕生日と聞いてやって来たという事はわかるが。
「どうしたの?」
「今日、誕生日だと聞いて、やって来たんだ」
やっぱりそうだった。家族だけではなく、真澄も誕生日を祝ってくれるとは。Vtuberのデザインやモデリングをしていてよかったと思った。これからも、みんなのために頑張っていかないと。
「そうなんだ。でも、どうして?」
「誕生日会、一緒に楽しみたいと思ってね」
真澄は笑みを浮かべた。誕生日会をやるという事を知っていて、家族と一緒に祝おうと思っていたようだ。
「本当? ありがとう」
と、真澄は階段に目をやった。どうしたんだろう。智子は首をかしげた。
「しばらく智子ちゃんの部屋で2人でいたいなと思って」
智子は少し戸惑った。どうして部屋に行こうと思ったんだろう。どうして作業部屋を見ようと思ったんだろうか? まさか、真澄もデザインやモデリングをしたいと思ったんだろうか?
「いいよ!」
2人は2階に向かった。両親は2人の後ろ姿を、不思議そうに見ている。あの真澄という男は一体、誰なんだろう。まさか、智子の彼氏だろうか? 少し外の世界に慣れただけで、彼氏ができたとは。いや、ネットで知り合った彼氏だろうか?
2人は智子の部屋に入った。部屋は散らかっていて、あまり清潔感がない。本棚にはクモの巣があって、様々な幻獣の本がある。それらは智子がネットで買って、両親を通じて受け取ったものだ。机にはゲーミングPCがあり、いくつも画面がある。照之の部屋よりもすごいな。
「こんな部屋でやってるのか」
「うん」
真澄はただただ驚きを隠せない。照之よりも上だ。自分もこんな作業風景にしたいな。
「照之の部屋よりすごい!」
「ありがとう」
真澄は智子の描いた絵を見ていた。そのほとんどは幻獣で、どれもこれも美しい。まるでプロのデザイナーのようだ。引きこもりで目立たない性格だけど、こんな特技があるとは。もっと外の世界に慣れれば、デザイナーになれるのでは?
「これが君の描いた絵?」
「うん」
真澄はしばらく、智子の絵に見とれていた。小中高の図工や美術で見た絵よりも、はるかにうまい。この子は本当に天才だな。
「きれいだね」
「ありがとう」
ほめられて、智子は笑みを浮かべた。笑った表情も、かわいいな。それなのに、どうしていじめられていたんだろう。
と、真澄は気になった。あれから就職活動はうまく行っているんだろうか? 何か悩んでいる事があれば、言ってほしいな。
「あれからどう?」
「まだ就職先が見つからないの」
智子はそれ以後も就職活動を頑張っている。だが、なかなかいい就職先が見つからないでいる。やはり、履歴書を見ただけで表情を変え、不採用になる場合が多いという。真澄は下を向いた。やっぱりそうなのか。智子はあんなに頑張っているのに、どうして報われないんだろう。
「そうか」
「みんな、私の経歴を見たら嫌な目を見て、しょっちゅう書類を返されたんだ」
智子は泣きそうになった。いつになったら就職できるんだろう。早く就職しないと。家計を支えたいのに。どうしてみんな、履歴だけで判断しちゃうの? 自分だって、仕事を頑張りたい気持ちでいっぱいなのに。
「そうなんだ。苦しんでるんだね」
「うん」
突然、真澄は真剣な表情になった。どうしたんだろう。智子は戸惑っている。
「なぁ智子ちゃん」
「何?」
真澄は持っていたカバンからあるものを出した。それは、小さな箱だ。この中には何が入っているんだろう。まさか、結婚指輪だろうか? 結婚については、真澄とならいいけど。
「プレゼントがあるんだけど」
「何?」
真澄は箱を開けた。そこには結婚指輪がある。智子は喜んだ。まさか、結婚してくれというんだろうか?
「これだけど」
「指輪? まさか?」
智子は嬉しくなった。ネットで知り合った仲間だけど、本当にいいんだろうか?
「僕と一緒にならないか?」
「いいよ。あなたと会えて、現実に目を向けるようになった。あなたといたら、もっと成長できると思った。ありがとう」
智子は真澄を抱きしめた。真澄はとても嬉しかった。とても暖かい。そして、真澄はほっとした。プロポーズを認めてくれて、本当に嬉しいと思っている。
そして、2人で生きる人生が始まるんだ。そう思うと、真澄も智子も前向きな気持ちになれた。
次の更新予定
2024年11月30日 07:00
Reality 口羽龍 @ryo_kuchiba
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