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 智子は今日も朝を迎えた。だが、今日はいつもと違う朝だ。今日は智子の27回目の誕生日だ。また1つ年を取ってしまった。10年以上も引きこもって、誕生日以外は年齢の感覚がなくなってしまった。どうしてこんな人生を歩んでしまったんだろう。今でも後悔ばかりだ。だが、頑張らなければ。そして、家族のために早く就職を決めなければ。


 智子は窓を開けた。今日もいつものように朝日が昇る。引きこもっていた頃は全く見なかったのに、あれから見るようになった。少しずつ現実を見つめ始めた証拠だろう。


 智子は1階のリビングに向かった。引きこもっていたころは、リビングすら行かなかったのに、今では普通に行くようになった。


 智子がダイニングに入ると、そこには家族がいる。


「おはよう」

「おはよう」


 智子の声に、みんなが反応する。これが求めていた家族の姿だろうか?


「今日は27歳の誕生日だね」

「うん」


 母に言われると、智子は下を向いてしまう。また1つ年を取ったと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。もっと頑張って就職活動をしないと。いつまでも親のすねをかじって生活していたらダメだ。自分で働き、成長していかないと。


「こんなに年を取っちゃって」

「ごめんね、お父さん、お母さん」


 智子は謝った。そんな智子を、両親は優しい目で見ている。就職活動を頑張っている智子を誇りに思っている。こんな智子だけど、きっと就職できるだろう。だって、智子は絵が得意なんだから。


「やっとわかってくれたようで。なかなか仕事見つからないけど、きっと見つかるから、頑張ってね」


 父は智子の肩を叩いた。智子はとてもやる気が出た。両親のためにも頑張らないと。


「私、学歴や職歴だけで判断する人、大嫌い」


 智子は思っていた。経歴だけで判断して、不採用にする面接官が気に食わない。本当に大切なのは、仕事をしたいという気持ちなんだ。経歴なんて全く関係ないと思っていた。


「その気持ち、わかる」


 母のその気持ちがわかった。就職活動は厳しいけど、智子にはいい仕事が見つかるはずだ。絶対にあきらめないで頑張ってほしいな。


「本当? ありがとう。私、一生懸命頑張るから!」

「頑張ってね」


 突然、インターホンが鳴った。誰からだろう。智子も驚いた。今日は土曜日で、みんな休みだ。こんな日に、誰だろう。


「あら、誰かしら?」


 母はドアを開けた。そこには真澄がいる。だが、母は真澄の事を知らない。真澄は、智子の家を訪問したことがなく、智子以外の家族は真澄の存在を知らない。


「あれっ、あなたは?」

「真澄です。智子さんと最近知り合った人で」


 智子はその声に反応した。まさか、真澄が来たとは。今日が誕生日だと知って、ここに来たんだろうか?


「はい。智子ー、真澄さんって人がやって来た!」

「本当?」


 智子は玄関にやって来た。そこには真澄がいる。まさか来るとは。智子は戸惑っている。誕生日と聞いてやって来たという事はわかるが。


「どうしたの?」

「今日、誕生日だと聞いて、やって来たんだ」


 やっぱりそうだった。家族だけではなく、真澄も誕生日を祝ってくれるとは。Vtuberのデザインやモデリングをしていてよかったと思った。これからも、みんなのために頑張っていかないと。


「そうなんだ。でも、どうして?」

「誕生日会、一緒に楽しみたいと思ってね」


 真澄は笑みを浮かべた。誕生日会をやるという事を知っていて、家族と一緒に祝おうと思っていたようだ。


「本当? ありがとう」


 と、真澄は階段に目をやった。どうしたんだろう。智子は首をかしげた。


「しばらく智子ちゃんの部屋で2人でいたいなと思って」


 智子は少し戸惑った。どうして部屋に行こうと思ったんだろう。どうして作業部屋を見ようと思ったんだろうか? まさか、真澄もデザインやモデリングをしたいと思ったんだろうか?


「いいよ!」


 2人は2階に向かった。両親は2人の後ろ姿を、不思議そうに見ている。あの真澄という男は一体、誰なんだろう。まさか、智子の彼氏だろうか? 少し外の世界に慣れただけで、彼氏ができたとは。いや、ネットで知り合った彼氏だろうか?


 2人は智子の部屋に入った。部屋は散らかっていて、あまり清潔感がない。本棚にはクモの巣があって、様々な幻獣の本がある。それらは智子がネットで買って、両親を通じて受け取ったものだ。机にはゲーミングPCがあり、いくつも画面がある。照之の部屋よりもすごいな。


「こんな部屋でやってるのか」

「うん」


 真澄はただただ驚きを隠せない。照之よりも上だ。自分もこんな作業風景にしたいな。


「照之の部屋よりすごい!」

「ありがとう」


 真澄は智子の描いた絵を見ていた。そのほとんどは幻獣で、どれもこれも美しい。まるでプロのデザイナーのようだ。引きこもりで目立たない性格だけど、こんな特技があるとは。もっと外の世界に慣れれば、デザイナーになれるのでは?


「これが君の描いた絵?」

「うん」


 真澄はしばらく、智子の絵に見とれていた。小中高の図工や美術で見た絵よりも、はるかにうまい。この子は本当に天才だな。


「きれいだね」

「ありがとう」


 ほめられて、智子は笑みを浮かべた。笑った表情も、かわいいな。それなのに、どうしていじめられていたんだろう。


 と、真澄は気になった。あれから就職活動はうまく行っているんだろうか? 何か悩んでいる事があれば、言ってほしいな。


「あれからどう?」

「まだ就職先が見つからないの」


 智子はそれ以後も就職活動を頑張っている。だが、なかなかいい就職先が見つからないでいる。やはり、履歴書を見ただけで表情を変え、不採用になる場合が多いという。真澄は下を向いた。やっぱりそうなのか。智子はあんなに頑張っているのに、どうして報われないんだろう。


「そうか」

「みんな、私の経歴を見たら嫌な目を見て、しょっちゅう書類を返されたんだ」


 智子は泣きそうになった。いつになったら就職できるんだろう。早く就職しないと。家計を支えたいのに。どうしてみんな、履歴だけで判断しちゃうの? 自分だって、仕事を頑張りたい気持ちでいっぱいなのに。


「そうなんだ。苦しんでるんだね」

「うん」


 突然、真澄は真剣な表情になった。どうしたんだろう。智子は戸惑っている。


「なぁ智子ちゃん」

「何?」


 真澄は持っていたカバンからあるものを出した。それは、小さな箱だ。この中には何が入っているんだろう。まさか、結婚指輪だろうか? 結婚については、真澄とならいいけど。


「プレゼントがあるんだけど」

「何?」


 真澄は箱を開けた。そこには結婚指輪がある。智子は喜んだ。まさか、結婚してくれというんだろうか?


「これだけど」

「指輪? まさか?」


 智子は嬉しくなった。ネットで知り合った仲間だけど、本当にいいんだろうか?


「僕と一緒にならないか?」

「いいよ。あなたと会えて、現実に目を向けるようになった。あなたといたら、もっと成長できると思った。ありがとう」


 智子は真澄を抱きしめた。真澄はとても嬉しかった。とても暖かい。そして、真澄はほっとした。プロポーズを認めてくれて、本当に嬉しいと思っている。


 そして、2人で生きる人生が始まるんだ。そう思うと、真澄も智子も前向きな気持ちになれた。

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2024年11月30日 07:00

Reality 口羽龍 @ryo_kuchiba

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