11
真澄と出会ってからの事、智子は徐々に外の世界に目を向けるようになった。どうしてかはわからない。照之が仕事を頑張っていたにもかかわらず、どうして自分は引きこもっているんだろうと思ったからだろうか? それとも、真澄に出会って、徐々に外の世界に慣れていこうと思ったからだろうか?
そんな智子の執念を、家族は喜んでいた。これまではとても気にしていて、何度も就職しろと言ってきたが、暴力でそれを拒否していた。だが、今は違う。就職に前向きだ。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃーい!」
智子は面接を受ける会社に向かった。家族は笑顔で見送っている。就職して、こんな風に見送ってもらいたいな。そのためには、仕事に採用されないと。
智子は最寄りの駅にやって来た。駅にもだいぶ慣れてきた。だが、周りを気にしてしまう。いじめていたやつに会うかもしれない。だが、そんな恐怖は徐々に和らいできた。全くからかわれない。私の事を忘れてしまったからだろうか? それとも、無視しているからだろうか? もういじめないと思っているからだろうか? 智子にはわからない。
智子は地下鉄の中で面接の受けごたえの練習をしていた。だが、周りの人はまったく気にしていない。智子の事を全く知らない人ばかりのようだ。智子は緊張している。今度こそは受かるんだろうか? 全くわからない。もう何度受けたか、覚えていない。
智子は1ヶ月ぐらい前から就職活動をしているものの、採用されないばかりだ。中卒で、10年以上も空白のある履歴書を見たら、誰も冷たい目をするのだ。こんなに空白があれば、本当にできるかどうか不安にされる。智子にもそれはわかっている。だが、そんなのは関係ないと思っている。こんな私でもできるはず。絵が得意だ。それを大きなセールスポイントにしていければいいな。
智子は面接をする職場の最寄り駅にやって来た。そこは、自宅から徒歩と電車で30分ぐらいの所にあり、距離はそこそこいい。智子は緊張しているが、徐々に面接の雰囲気に慣れてきた。
数分歩いていると、面接を受ける職場に就いた。そこはケーキ屋だ。自分は絵を描く事が得意だから、ここなら頑張れそうだと思った。
「ここだな・・・」
智子は入り口に前に立った。智子は入り口の扉を叩いた。
「はい」
智子は静かに中に入る。その先には、店長と思われる人がいる。
「失礼します。今日、面接とお聞きしてまいりました、松井智子です」
今日、面接の予定が入っている松井智子が来たようだ。こんな人なのか。なかなかよさそうな人だな。
「こちらの席にどうぞ」
「はい」
智子は指定された席に座った。智子はまったく緊張していない。この子はなかなかいいな。採用してみたいな。
「じゃあ、履歴書を見せてください」
「はい、こちらです」
智子は履歴書などが入った封筒を渡した。面接官は封筒を受け取る。
「ありがとう」
面接官は封筒の中身を見て、履歴書を目に通した。中学校を卒業してから10年以上の空白がある事が目立つ。これはどういう事だろう。面接官の表情が変わった。
「君、中卒なんだね」
「はい」
やっぱり言われた。智子は正直に自分は中卒だと明かす。いつもこんな事を言われている。どう答えるか、戸惑ってしまう。
「君、中学校を卒業してから、10年以上何をしてたの?」
面接官は思った。この子は中学校を卒業してから、10年以上何にもやっていない。その間、何をやっていたんだろう。家族の介護や家業なら仕方ないけど、10年以上の空白がとても気になるな。
「ずっと家にいました。ですが、社会復帰を目指して頑張っています」
面接官は驚いた。10年以上も家にいた。その間の事は明かしていない。ひょっとしたら、何もしていなかったのでは。そうならば、できるかどうかはわからないな。当社としては即戦力となる人材が欲しいのに。これは不採用かもしれない。
「そう、ですか・・・」
智子は戸惑った。いつもこんな事を言われている。10年以上の空白はもう問いかけられたくない。私は一生懸命仕事をしたいのに。
「君、本当に頑張りたいの?」
「はい。早く仕事に慣れたいです」
だが、面接官は冷たい目で見る。本当にやっていけるのか不安だ。智子はその様子を気にしている。また同じ目つきだ。智子にはわかっている。採用に対して前向きではないんだろう。
「うーん・・・、でもね、君は10年以上もブランクがあるんだよな」
「ですが、頑張りたいんです!」
だが、智子は積極的だ。採用してほしい。そして、人間として成長したい。だから、採用してくれ。
「本当にできるのか、心配だね」
面接官は首をかしげた。とても心配そうな表情だ。この人と面接したのを後悔しているようだ。早く帰ってほしいな。
「うーん・・・」
隣の面接官も首をかしげている。今回は不採用でいいよな。面接官は履歴書などを封筒に入れて、お返しした。それを見て、智子は今回も不採用だと悟った。これは不採用だという証明だ。
「今日はありがとうね」
「ありがとうございました。失礼します」
智子は静かに職場を出て行った。出た所で、智子は泣いてしまった。また不採用だった。家族にどう目を向けよう。
「どうして私、いっつもいっつも・・・」
「大丈夫かい?」
智子は誰かの声に気付き、顔を上げた。そこには真澄がいる。まさか、真澄が来ていたとは。真澄は本当に優しいな。この人なら、夫になってもいいかも。真澄はまるで励ましているようだ。真澄のためにも、就職活動を頑張らないと。
「うん・・・」
「大丈夫大丈夫。拾う神は必ず現れるよ」
真澄は智子の頭を撫でた。真澄に励まされると、智子はやる気が出る。そうだ、自分にも絶対に拾う神が現れるんだ。そして、就職できるんだ。
「本当?」
「うん。だって君は絵の才能があるから」
そうだ。私には絵の才能がある。いくつものVtuberのデザインやモデリングをしてきた。そして、多くの人々に支持されてきた。それを自分の最大のアピールポイントにすればいいじゃないか。
「ありがとう。私、頑張るね」
智子は駅に向かっていった。真澄はそんな智子の後ろ姿を見ていた。頑張っているのに、どうして報われないんだろう。どうして人は履歴書だけで決めつけるんだろう。智子は頑張りたい気持ちがあるのに、どうして採用されないんだろう。何度も不採用になっている智子がかわいそうでしょうがない。
「うーん・・・」
智子は考えていた。いつになったら就職までこぎつけられるんだろう。もう、自分には就職できる場所なんてないんじゃないかと思えてきた。だけど、就職活動を頑張らないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます