10
その次の週末、真澄は東京駅にいた。今日は智子と一緒に東京を歩く日だ。どこに行くかは決めているけど、智子がついていけるのか心配だ。家に引きこもってばかりで、外に慣れていないからだ。
真澄は辺りを見渡した。だが、智子は来ていない。まだ移動中なんだろうか? 今日は来ようと思っていないんだろうか?
「おはよう」
真澄は後ろを向いた。そこには智子がいる。智子は笑みを浮かべている。徐々に良くなってきたようだ。
「おはよう」
真澄の声に、智子は嬉しそうだ。智子は真澄の事が気に入っているようだ。
「今日はいろいろ巡ろうかな?」
「うん・・・」
だが、巡ると聞くと、智子は下を向いてしまう。いまだに怖いんだろうか?
「どうしたの?」
「本当に大丈夫かなと思って・・・」
智子は不安だ。歩いていると、誰かにいじめられないか心配だ。もう誰からもいじめられたくないのに。もう誰にも会いたくないのに。
「大丈夫だって。さぁ行こう!」
2人は歩き出した。だが、智子はおぼつかない。本当に大丈夫だろうか? 真澄は不安になった。
「スカイツリー行ってみようか?」
「いいよ・・・」
2人は東京スカイツリーに行く事にした。東京スカイツリーは押上駅の近くにあり、新しい東京の観光スポットとして定着している。今日も多くの人が来ているだろう。
「スカイツリーに行った事あるの?」
「ううん」
智子はスカイツリーに行った事がないようだ。10年以上も外に出ていない。外に出なくなって以降に完成した。その存在は知っていた。だが、行ってみたいとは思わなかった。
「そっか。誰かと行った事あるのかなと思って」
「もう10年以上、家に引きこもってるし」
智子は下を向いていた。10年以上も引きこもっていたのを反省していた。これからはもっと、外の世界を見ていこうと思っているようだ。だが、その環境にまだ慣れていない。
「そうだったんだ。大丈夫?」
「あなたと出会って、徐々に良くなってきたけど、そんな自分でも本当に仕事ができるのかなって。面接で採用してくれるんだろうかと思って」
最近、智子は考えている。自分で仕事を見つけよう。そして、働いて稼いでいこう。そうしなければ、家を支えられない。そして、自分も成長できない。今はネット界だけで頑張っているけれど、現実で頑張ればもっと成長できるんじゃないかと思った。
「うーん・・・、大丈夫だと思うよ。拾う神は現れると思ってるよ」
真澄は期待している。10年以上も引きこもっている智子でも採用する仕事は絶対にある。智子なら絶対にできるはずだ。だから頑張ってほしいな。
「そうかなぁ・・・」
だが、智子は不安だ。中卒で、中学校の途中から引きこもってばかり。こんな自分でも、本当に採用してくれる人がいるんだろうか?
「不安?」
「うん」
突然、真澄は智子の肩を叩いた。智子は少し気合が入った。とりあえず、頑張ってみよう。
「まぁ、やってみろよ!」
「わかった」
2人は東京駅に隣接した大手町駅から、半蔵門線に乗った。これに乗れば東京スカイツリーの最寄り駅の押上駅までまっすぐだ。
2人は東京スカイツリーの前にやって来た。2人は東京スカイツリーを見上げた。その高さには驚く。真澄は何度も東京スカイツリーを見ているが、何度見ても圧倒される。
「そろそろだね」
「うん」
智子はその大きさに感動していた。これが東京スカイツリーなのか。テレビやインターネットで見るよりも迫力がある。生で見る迫力って、こんなのかな? やっぱりネットやテレビよりも、生で見るのがいいな。
「楽しみだなー」
「本当?」
「うん」
2人はスカイツリーの天望デッキに向かうためのチケット売り場に向かった。そこには多くの人が並んでいる。智子はそれを見て、そわそわしている。奥の人がいるだけでおびえてしまう。
チケットを持った2人は、エレベーターでスカイツリーに向かっていた。エレベーターに乗るまでにも、多くの行列がいる。今日は週末だ。家族連れが多い。みんな楽しそうだ。それを見て、真澄は思った。この人たちのように、智子と幸せな家庭を築けたらいいな。それを智子は認めてくれるんだろうか?
数十分後、ようやくエレベーターに乗れた。2人はワクワクしている。その先にはどんな光景が待っているんだろう。
エレベーターが開いた。そこには見た事のない風景が広がっている。
「さぁ、着いたぞ!」
2人は天望デッキから東京を見下ろした。こんな光景は見た事がない。本当に素晴らしい。家々などがこんなに小さく見える。2人は感動して、思わず見とれていた。
「すごいなー」
「そうね」
よく見ると、東京タワーが見える。東京タワーは2人とも行った事がある。その時の感動は忘れられないな。また一緒に行きたいな。
「高くから東京を見下ろすなんて、東京タワーに行った時以来だわ」
「そうなんだ」
と、智子は真剣な表情になった。急にどうしたんだろう。真澄は智子の表情が気になった。何か思っている事があるんだろうか?
「私、あなたと出会って、少しずつ現実と向き合おう、そして、頑張ろうと思う気持ちになったの」
「そっか。いいじゃないか」
真澄は智子をほめた。これから自分で頑張ろうと思っているようだ。中卒で、10年以上引きこもりだけど、絵がうまいから、きっと雇ってくれる人はいるだろう。
「ありがとう。遅れたけど、名前は?」
「真澄」
智子は初めて、その男が真澄と知った。いい名前だな。この人となら、付き合いたいな。そして、また会いたいな。
「そっか、真澄くんっていうのか。いい名前ね」
「ありがとう」
真澄は笑みを浮かべた。誰かから褒められるなんて、何年ぶりだろう。
「仕事探し、頑張るから、応援してね!」
「わかった!」
真澄は思った。ようやく外の世界と向かい合おうと決意したようだ。これからの智子の成長に期待したいな。
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